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「おじいさんのランプ」とAI革命

2025年09月29日

「おじいさんのランプ」という新見南吉の児童小説があります。小学校の国語の教科書で読んだ記憶があるのですが、産業構造の転換とか技術革新ということが話題になるたびに思い出されます。あらすじは次のとおりです。

 かくれんぼをして遊んでいた主人公の少年が、蔵の中で古いランプを見つけ、おじいさんからそのランプについての昔話を聞きます。

 おじいさんは子供のころ孤児でしたが、いろいろな村の仕事をして村においてもらっていました。ある日隣の町に初めて出かけて行って、商店に吊るされているランプの明るさに驚きます。おじいさんの村にはランプがなかったのです。そしてランプ屋さんに頼み込んで、自分でランプを売る商売を始めます。ランプの販売は徐々に軌道に乗り、ランプ屋として成功したおじいさんはやがって結婚し、子供にも恵まれ幸せに暮らしていました。

 ところがある日隣町に行くと、電信柱が建てられ、電気というものが引かれていました。電灯の明るさはランプとは比較にならないものでした。おじいさんは電気が来れば自分の商売が危うくなると怖れ、村に電気を引くことに反対しますが、村では電気の導入が決まってしまいます。

 おじいさんは村の区長さんを逆恨みし、区長さんの家に火をつけようとしますが、持って行った火打石ではさっぱり火が付きません。「古くさいものはいざというときさっぱり役立たねえ・・」と舌打ちしたときにはっと気が付きました。ランプはもう古い道具になってしまったと。

 そして商売道具のランプを全て持ち出し、火を灯して池のまわりの木に吊るし、泣きながらひとつひとつに石を投げつけて割っていきました。そうしてランプに別れを告げ、新しい商売を始めたのでした。

「古い商売が役に立たなくなったら、そいつをすっぱり捨てるのだ。・・いつまでも古い商売にかじりついていたら、昔の方が良かったと言ったり、世の中が進んだことを恨んだり、そんな意気地のないことは決してしないことだ。」

(青空文庫「おじいさんのランプ」新実南吉 より)

 この作品は昭和17年(1942年)に刊行されたものです。作中でおじいさんがランプに出会ったのは13歳で日露戦争の頃だ、と言っています。ランプから電灯に変わったのは大正末期から昭和初期の頃でしょうか。明治、大正、昭和と変わり、時代の流れに応じて自分たちも変わっていこうという気概を感じさせます。

 ランプから電灯のような変化は常にあります。歴史上最も大きな変化は約1万年前の農業革命でしょう。それまでの狩猟採取生活から定住した農業生活への変化は、人類史最大の革命的変化でした。また、18世紀の蒸気機関の発明から始まる第1次産業革命も、社会と人間のあり方を一変させ、その影響は現在まで続いています。

 日本でも、明治維新は西欧の産業革命に対する日本の対応と見ることができます。昭和30年代の石炭から石油へのエネルギー資源の変化も産業構造の転換であり、産業革命のひとつでした。当時は炭鉱の閉鎖が続き、有名な三井三池炭鉱の労働争議もありました。こうした変化への抵抗は、イギリスの「ラッダイト運動(打ちこわし運動)」を代表として常にありました。そういう意味では「おじいさん」の対応は、変化を受け入れる潔い対応だったと言えます。

 現在はIT革命からAI革命が起こりつつあり、第4次産業革命と言われています。ソフトバンクの孫正義社長が、2023年10月4日の講演で次のように述べています。

「AGI(Artificial General Intelligence 汎用人工知能と訳すようです)は、人類叡智の10倍です。AIがほぼすべての分野で人間の叡智を追い越してしまう。これがAGIのコンセプトです。このAGIの世界が今後10年以内にやってきます。そしてAGIの世界ではすべての産業が変わります。教育も変わる、人生観も変わる、生き様も変わる、社会のあり方、人間関係も変わるんです。」

 そしてさらに10年後には(つまり20年後)には、AGIの知能は人類叡智総和の1万倍になると言います。

「1万倍となると人間対サルではなく、人間対金魚なんです。金魚のニューロンは人間の約1万分の1ですから。今後20年で人類の知能は、今の金魚と変わらないくらい差ができるということです。・・・人類の進化の源泉は願望にある。強い願望が人類の未来をAGIとともに作る。敵ではなく味方としてあらゆる進化を遂げる。活用するのか、取り残される金魚になりたいのか。日本よ、目覚めよ」と熱く語っています。

(ソフトバンクホームページ・ビジネスブログ2023年10月4日)

 なんだかえらい話になってきました。

 孫社長の話が本当なら、もはやAGIに人間の統治を任せればよいということになります。金魚が政治をやったってしょうがありませんよね。そうすれば戦争のない平和な世界になり、政治も経済運営もAGIにお願いすれば何の問題もありません。でもそれは、ジョージ・オーウェルの「1984」のビッグブラザーがAGIに変わっただけの恐ろしい世界になるような気がします。もしかすると、「ターミネーター」のスカイネットのような人間に敵対し、滅ぼそうとするものになるかもしれません(可能性ですけどね)。