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ダムと地質調査(3)ダム工事の流れ

2021年02月09日

 ダムは大変に大きな土木工事なので、ひとつのダムを建設するまで長い時間を要します。計画を立ててから完成するまで、20年から40年かかるというのが普通です。ダム技術者が「本体工事に取り掛かれば終わったも同然」というほど、実は本体工事に取りかかるまでの調査と地権者、地元との交渉に大変な時間がかかります。

 まず、ダムを造るために適した場所を選定します。望ましい場所は、なるべく少ない材料で目的とする貯水量を貯められる場所です。広い集水域を持ち、なおかつ河谷の幅が狭く、堅固な岩盤でできている渓谷ということになります。そして、ダムを作った後に水が漏れないところです。こうした場所を選定し、詳細な地質調査、環境調査を行います(調査については後で詳しく説明します)。

 建設工事の流れは次のようになります。

①工事用道路の建設 バックホーやクレーンなどの大型重機、セメント、砂利などの資材を運搬するための道路です。古い道路を利用することが一般的ですが、拡張したり、路盤を補強することも少なくありません。重量物や大きな寸法のものを運ぶため、急なカーブは道を広げ、橋が重量に耐えられなければ架け替えることもあります。

②川の迂回 水の中ではダムを建設できないので、工事中は一時的に河川の水を迂回させる「転流工」と呼ばれる河川処理が必要になります。この方法には「仮排水トンネル」「仮排水開渠(暗渠)」「半川締め切り」の3方式があります。河川流量、川幅、経済性を考慮して決めます。フィルダムや川幅の狭い渓谷では一般的に「仮排水トンネル」を採用します。ダム本体が完成すると、仮排水路は締め切り、コンクリートで埋めてしまいます。

        転流工・仮排水トンネル 

③基礎岩盤掘削 ダム堤体を新鮮な硬い岩盤に建設するため、土砂や風化した岩盤を取り除く掘削工事を行います。掘削は発破や大型重機を使いますが、最後は人力や小型機械により、基礎岩盤を緩めないように「仕上げ掘削」し、緩んだ部分は入念に除去します。清掃後に、コンクリートダムでは岩盤とコンクリートを密着させるためにモルタルを敷き込み、フィルダムの場合も、コアが載る岩盤とコア材を密着左折ために、スラリー処理と呼ばれる、粘土で岩盤の局部的な凹凸を埋め、水漏れを防ぐ処理を入念に行います。

           基礎岩盤掘削

④コンクリートプラント・骨材製造設備の建設 ダムのコンクリートは一般のコンクリートよりも粗骨材(石ですね)がはるかに大きく、水量の少ない非常に硬いコンクリートを使用します。また、大量のコンクリートを使用するため、ダムの建設現場でコンクリートを製造する「バッチャープラント」と呼ばれる設備を建設します。また、近くの原石山から採取した岩から骨材を製造する設備も建設します。

⑤堤体の建設 いよいよダム本体の盛り立てです。コンクリートダムは一般的なコンクリ-ト構造物のように「型枠にコンクリートを流し込んで作る」というよりも「コンクリートのブロックを積み上げていく」というイメージで作られていきます。通常1回あたり1.0m~1.5mを単位とした層を何層にも分けて積み重ねていくという手法をとります。この方法は、施工上の都合と温度ひび割れを発生させないためです。

         堤体建設中のダム

 コンクリートは、打設後水和反応を起こしながら硬化しますが、この時にコンクリート内で温度が上昇します。一度に大量のコンクリートを打設すると、温度が上がりすぎて堤体の中と外の温度差でひび割れが発生してしまうからです。

 一方フィルダムは、堤体内部の「コア(水漏れを防ぐ粘土層)」とその両側のフィルター、ロックをほぼ同じ標高で盛り立てていきます。この中で特に重要なのが遮水層であるコアの締固めです。一般的には20~30Cmづつ盛り立てて振動ローラーで締固めます。

⑥原石山の掘削 原石山からはコンクリートの骨材や、ロックフィルダムのロック材を採取します。なるべくダム堤体に近いところから採取することが望ましいのですが、近くにない場合は、経済性の面からダム形式を変更する可能性も出てきます。

⑦グラウチング 基礎岩盤の隙間にセメントミルクを注入し、充填する作業をグラウチングと呼びます。これはダム基礎岩盤の「みずみち=亀裂」をふさぎ、基礎を一体化し、弱層部を補強するためのものです。ダムの水漏れ防止と、基礎岩盤の補強のために重要な工事です。

          グラウチング作業

⑧付け替え道路の建設 ダム湖に沈む古い道路に変わる新しい道路の建設も必要になります。これはダム湖よりも高い位置に建設します。ここでは切土や盛土、トンネルや橋梁の建設も行われます。

⑨移転する地元の人たちのための代替用地の確保と、宅地の建設

 これらの工事を、本体工事を中心にしながら並行して進め、最後に管理施設の建設、湛水試験を行い、安全を確認して完成となります。こう書いてくると、ダムを建設するためには実に多様な工事が必要なことがわかります。

 先にも書いたとおり、ダムは河川管理施設等構造令の技術基準に基づいて設計され、建設されるのですが、基準が作られてきた背景には、残念ながら事故の教訓があります。ダムの事故が起きれば大変大きな被害が発生します。過去に実際に起きた事故を教訓に、安全に建設するための基準が整備されてきたのです。次回はこの過去のダム事故について取り上げます。