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ブログ投稿文のご紹介

2021年03月03日

 当社ブログをご覧になっている方からの投稿文を紹介します。名前とお立場を伏せてという条件で掲載しますが、文章にあるとおり宮城県栗原市にお住いで、水防団などの地域のリーダーとしてご活躍されている方です。私たちは土木に係る技術者の立場から災害を見て、意見を述べているのですが、地域で実際に防災活動に携わり、行政とともに対策に取り組まれている方の意見は重いと感じます。

 まずは全文を紹介します。

 始めまして、こんにちは。私は宮城県栗原市瀬峰に在住しています。瀬峰地区は、一昨年の台風19号で、アイオン台風以来とも言える、住宅浸水被害が発生しました。水田等の冠水は毎年の事になっています。この中で、下流域にある、蕪栗沼遊水地の越流堤及び遊水域の貯水標高を高く設定したことによる、バックウォーターが原因ではないかと、思うようになりました。

 昨年来ネットを中心に、北上川全域の治水事業の流れなど、勉強をしています。御社のホームページもその中で検索する事が出来、特にブログを読ませて頂き北上川の有史以来の先人の大変な難業に驚きその恩恵にあずかっている事を改めて考えております。今回は、12月の『手前味噌ですが』のお話しを読み投稿させて頂いて居ります。

 北上川、旧北上川、迫川、旧迫川の違いも、現場を何度も見て歩くうちに良くわかりました。また蕪栗沼のこれまでの歴史、経緯、現在の遊水地の囲繞堤、周囲堤、越流堤、各機場等の総て、河川の形状規定高水位、流量等も把握する事ができ、縄文海進で海となっていた、全地域がまるでレントゲン透視したかの様に分かってきました。

 蕪栗沼遊水地については、自然遊水地となっていた時点の貯留水の標高を相当上回って造られている事が、全方向の流入河川にバックウォーター現象を起こしている、と思います。

 特に直上流4河川が通る瀬峰地区については、東北本線以西の堤防が、東側の遊水地対応堤防と比べて整備されていません。素人が見ても、直ぐに分かる位です。何故なのか不思議でしたが、何度も考えているうちに、鉄道橋が水没するために整備出来なかったのではないかと思うようになりました。東北本線が開通した150年ほど前には、今回の下流の高水位はありませんでした。ネットの情報から橋梁の標高と、河川高水位の差など知るにつけ、そのような私なりの結論に至りました。また、各地の遊水地も調査しましたところ、一関遊水地に平泉を流れる太田川と言う河川があり、これが堤防かさ上げで、東北本線が水没するようになるために、鉄道と平行に同じ高さの遮水堤防を造ったことが分かり、視察してきました。このシステムを瀬峰の河川に設置する事が出来れば解決できると考えています。

 また瀬峰を流れる小山田川の水位計のある富橋の左岸上流500m位に、霞堤が現存しています。江戸時代に造られたと思われますが、水門、樋門等一切ありません。これは、特に増水時、下流の水位の影響を受けます。河川と平行して、高清水まで直線の県道が走っています。これは明治時代に、天皇が瀬峰、高清水に在った陸軍の演習場視察の折、造った道路と言われています。その当時も洪水時に遊水機能をもっていましたので、どのような洪水が発生しても絶対冠水しない高さに設定したものと、思います。近年二回ほど冠水し不通に成りました。その時間も長い時間冠水しました。100年以上冠水したことが無いのです。蕪栗沼遊水地が完成してからの現象です。水位標高の関係を表していると思っています。

 更に、蕪栗沼遊水地の周囲堤(kp8.7)と小山田川右岸堤防、地区右側丘陵が自然堤防の役割を果たし小山田川上流右岸が決壊すれば、囲まれた居住区、水田300ヘクタールが水没します。標高8.7m以上で決壊すれば、本川が減水しても戻りません。これを想定しての排水機場、水門等ありません。この地区はアイオン台風で、決壊し、東北本線が堤防と成りダム湖のようになり、一週間水没しました。その後決壊し水が引いたのです。その後東北本線は2か所に隧道を造りましたので、それ以後は決壊しても、下流に流れるので、大丈夫だと言われて、安心して暮らしていました。まさか、蕪栗沼遊水地の周囲堤で新たに水没させられようとは、思いもしませんでした。

 やがてまた降雨シーズンが来ます。地区住民の願いは水害被害に成らない事です、この平和な時代に、生命は助かるでしょう、そのことは行政、地区民一体で万全を尽くしています。しかし被害の惨状を見て、絶望する姿が、目に浮かびます。毎回消防水防団が豪雨の中、右往左往しています。

  堤防も、決壊しない堤防を造ってもらいたいものです。どんなに河道確保しても、上回る雨量があれば、決壊の恐れがあります。今現在、国は決壊しない堤防と、言いません。それでも粘り強い堤防と言って、一歩前進はしたと思います

 蕪栗沼遊水地の関係については、栗原市長、市議会、土地改良区、地区区長会、地区民などに情報を共有して頂き、洪水被害の軽減に向けて行動を起こして頂いています。簡単に解決する事は出来ませんが、管理者である県と話し合いを続けていきたいと思っています。

 このブログでも平成30年西日本豪雨や令和元年台風19号などの被害について紹介し、感想を述べてきました。昨今の雨量強度の増大は、これまでの水害対策では対応しきれないものになってきていると多くの人が感じていると思います。

 昨年、国土交通省は「流域治水」の方針を打ち出しました。これは河川の上下流すべての水を河道内に閉じ込めて排水するというこれまでの治水の考え方を変え、ある程度河道の外に洪水があふれることを許しながら、破堤による大被害を抑え、被害の怖れのある地域では危険の少ない場所へ家屋の移転を誘導するという方針です。(「流域治水」についてはまた改めて詳細を述べたいと思います)

 この方針転換は正しいものだと思いますが、ではどこに水を誘導するのか、またその補償はどうするのか、といった各論のところで、各地域住民との利害調整が必要になります。

 今回の投稿者の方は、地域の地形、堤防の位置、高さ、そこから予想される被害の範囲を想定し、どうやって水害を起こさないようにすべきか取り組んでおられます。ご自身の地域だけでなく、他の地域も視察され対策を模索している姿には本当に頭が下がる思いです。今後の水害の激甚化に対して、行政・地域住民・技術者が協力して対応していかなければならないのですが、地域住民の方の取り組みの一例として広く知っていただければと思います。