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働くことと「社会貢献」

2020年07月02日

 このところ新卒採用の面接を何度か行いました。その中で「あなたにとって働くとはどういうことですか?」と質問すると、「社会に貢献したいから」という答えが何人かの学生さんからありました。
 ずいぶん若い人たちの意識が変わったたんだなあ、と感じました。私の世代でこういう答えをする人はほとんどいなかったと思います。「働くことで自分と家族の生活を支える」とか「給料を稼いで自分の好きなことをしたい」という感覚だったと思います。私も、学校を卒業したら働くものだ、という以上のものはありませんでした。長く働くなかで、改めて働く意味や役割を考えてきた、といったところでしょうか。
 「就職の面接用に【社会貢献】という言葉がトレンドになっているんじゃないの」とひねくれた見方をする人もいますが、決してそうではないと感じます。特に宮城県では直接的か間接的かは別にして、東日本大震災で被災した人が多くいます。来年大学を卒業する学生さんは、感受性の強い小学校6年生で東日本大震災を経験しており、こうした感度の高い人が多くなっているのも肯けます。
 会社が社会的な責任を果たすCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)は、今や当然のことと考えられていますが、その基本となるのは社会と会社(企業)との関係です。どのような会社であれ、社会の需要と供給のつながりの中で社会的責任を果たしています。洋服のメーカーであれば、必要とされている洋服を供給する、お寿司屋さんであれば、おいしいお寿司を提供することで社会(消費者)とつながり、利益を上げつつ社会的責任を果たすということが基本となります。
 本来会社で(会社だけではありませんが)仕事をすることがすなわち社会に貢献することになるはずであり、会社は社員にそういう取り組みを望んでいます(要するに利益が出るようにしっかり働けということ)。しかし、会社で働くことと社会に役立ち評価されることが、直接的に結びつきにくいという現実があります。
 ネット上の質問箱のようなコーナーで、ある人が「社会貢献なんかしたくありません。本心で社会貢献をしたいと思っている方は、理由を付けて回答願います。」と書いていました。これに対して次の回答がありました。
 「社会貢献したい理由は生きている意味が分からないからです。(中略)自分が生きている意味が最も感じやすいのが社会貢献なので、社会貢献をしたいです。」
 この回答が、働くことで社会とのつながりを感じ、正当な評価を得ることが難しい現実を端的に表していると思います。
 とはいえ、すべての職業がこうした社会とのつながりが感じにくいかというとそうではなく、職種によって感じやすい職種と感じにくい職種があります。例えば、医師や看護師は患者さんを治療することで感謝を受け、世のため人のために役立っていると直接感じられます。また、消防士や警察官も社会の安全を守る仕事ですから、社会に役立つ仕事だと感じやすいですよね。働くからには報酬はもちろん大事ですが、この実感もまた働くことの大きな意味です。地質調査も、社会インフラの整備や防災のための仕事ですので、社会への貢献と業務が結びつきやすい仕事といえます。
 面接を受ける学生さんたちが「社会貢献をしたい」という背景に、東日本大震災の影響があることは間違いないのですが、また、社会とのつながりを実感し、評価を得たいという思いもあるのではないかと感じます。私はこの感覚は正当なものであるし、こうした職業を選択してほしいと思っています。そして、実際に働くなかでこの社会的な評価を現実のものとしてつかんでいってほしいと願っています。