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地形という災害の記録

2019年12月11日

 遅まきながら、全地連(全国地質調査業協会連合会)主催の2018年度応用地形判読士2次試験の問題を見てみました。この問題で取り上げられた地形について感想を述べます。
 問題は、国土地理院の旧版地形図「祇園」図幅(昭和23年8月30日発行)の部分について、考えられる災害の種類とその原因を記述せよ、というものです(他にも問題はあります)。この地形図を見ると、地形・地質を勉強している人はピンとくるものがあります。「ブラタモリ」のタモリさんだと頭の上に【!】マークが出て、林田アナウンサーだと【?】マークがピッと出るところですね。
問題の範囲はもっと広いのですが、画面の都合上一部のみを掲載してあります。

 

 同じ場所を現在の地理院地図で見ると次のようになります。


 

 

 現在の地形図では住宅地が広く造成され、元の地形がわかりにくくなっていますが、旧版地形図ではよくわかります。
 図面右下を流れているのは、中国山地から流下し広島市で瀬戸内海にそそぐ太田川です。狭く切り取ったこの図面ではわかりませんが、太田川は氾濫原を東側に寄って流れています。これは西側の山地(阿武山側)からの土砂供給量が多く、太田川を東に押し出しているためです。また、太田川西側の地域には太田川旧河道が何本もあり荒地になっていること、田圃が堤防で囲まれていること(川が堤防で囲まれているのではない)から、太田川は土砂供給量の多い川であり、何度も氾濫をくり返していることを示しています。
 阿武山から鳥越峠に続く西側山地の山麓(赤線で囲った部分)の地形を沖積錐(ちゅうせきすい)と呼びます。この地形は、急勾配の谷の出口で土石流の堆積が繰り返されてできた地形で、土石流扇状地とも呼ばれます。つまり豪雨のたびに土石流が発生し、大小乱雑な岩から土砂が堆積しているということです。
 旧版地形図では家屋が少ないのは当然ですが、八木村の植竹、小原、上楽地といった集落は沖積錐の末端部、平地との境に作られています。これは太田川の氾濫と阿武山側からの土石流を避けられるぎりぎりのところを選んで住んでいたことを示しています。
 さて、改めて現在の地形図を見ると、地名が安佐南区八木となっています。ここが平成26年8月豪雨で74名の方が亡くなった土石流災害があった地域のひとつであることは、まだ記憶に新しいところです。また、4年後の平成30年西日本豪雨でも土石流被害にあっています。宅地は沖積錐全体を覆い、太田川付近も氾濫原全体が住宅地になっています。

     平成26年8月広島市安佐南区八木地区での被害状況:写真 国土交通省

 広島県は広く花崗岩とその風化土であるマサ土に覆われています。この地域も同様です。瀬戸内海の白砂青松の景観を作った元ですね。一方でマサ土は浸食に弱く土砂災害を起こしやすいことで知られています。また、花崗岩の風化は他の岩石と異なり、風化土のなかに巨大な残留礫を残すという特徴があり、土石流の被害を大きくすることがあります。
 平成26年に起こった土石流は、それまでも繰り返し起きていたことは間違いありません。そのことを旧版地形図は明瞭に示しています。このことが表題に書いた【地形という災害の記録】です。そしてかつてこの地に住んでいた人たちは、このことを理解し避ける工夫をしてきたことを示唆しています。
 私たちの仕事は受注業務であり、クライアント(発注者)の要請にしたがって仕事を行います。しかしそれだけにとどまらず、その場所にどのような災害の危険性があるのかを発信していく必要があります。大きな自然災害が連続している昨今ではなおさらです。業界全体で取り組んでいくべき課題ではないでしょうか。