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平庭峠の白樺

2020年11月07日

                平庭峠の白樺林

 仕事で岩手県久慈市に時々出かけます。仙台から久慈に向かう場合、東北道から九戸インターか軽米インターで降りて一般道を使うのが普通ですが、急がない時は滝沢インターから沼宮内、葛巻を通って久慈まで走ります。わざわざ時間をかけるのは、平庭峠の白樺林を見たいからです。特に新緑、紅葉の時期の平庭峠は絶品で、観光の目玉のひとつになっています。

 ところで、白樺というと長野、北海道は有名ですが、東北地方でこれだけの白樺林があるのは平庭峠だけだと思います。白樺は、この地域の山地の雑木林の中にある樹種ですが、ミズナラなどに混じってまれにぽつぽつとみられる程度です。なぜここだけがそうなっているのか、以前から不思議でしたが、あるとき「山形村史」を読んでこの謎が解けました。

 「山形村史」によると、山形村(現在では合併により久慈市山形村になっています)と隣の葛巻町では、昔から林業、特に薪炭業(炭焼きですね)が盛んでした。ところが、白樺は材質が柔らかすぎるため、建築材としても、薪炭材としても役に立たず、ミズナラ、クヌギ、ブナなどの有用材をだけを伐採し白樺はそのまま残したのだそうです。さらに白樺は陽樹、日の当たるところで幼樹が成長する木のため、ほかの木の伐採後にどんどん増えてしまい、現在のほぼ純林状態になった、つまり結果として人工的な林になったということです。

 そういうわけで観光資源となった白樺林ですが、白樺は成長が早い一方で、寿命が短いという特徴があります。おおむね80年から100年程度の寿命だと言われています。また、白樺の林の下からは、陰樹(日陰で成長する樹種)であるミズナラなどが成長し、白樺は世代交代できないことになります。したがって、そのまま放置しておくと再び東北地方本来のミズナラ、ブナ林に戻ってしまう運命にあります。

 この白樺の純林がこのまま維持されていくのか、あるいは岩手県北部に特徴的なミズナラ、クヌギ、クリ、カエデなどの混合林に戻ってしまうのかはまだわかりません。いずれにしても自然は必ずしも「自然のまま」にあるわけではないことを感じさせられます。ただ、これは長い時間の中で変化していくものなので、まだしばらくは今の美しい白樺林が見られるものと期待しています。