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忍法「分身の術」

2020年01月31日

 会社の休み時間にみんなと話していて、こんな話題が出ました。
 「仕事をしているときに、もう一人自分がいればなあ、と思う時があるよね」
 「そうそう、相手が自分だったらくどくど説明しなくてもいいし、すぐ話が通じるからいいよね」
 「そうなんだよ、忙しいときはなおさら部下が自分だったらと思うよ。自分がやりたいことが何かわかってくれるし」
 みんなで「そうだよねー」と言って笑ったのですが・・。
 これは私もよく思ったことがあります。予定を決めていても、別の用事が入っててんてこ舞いしたり、片方の予定を断わるために頭を下げたりすることはよくあることです。また、部下がなかなか自分の言うことを理解してくれない、指示してもそのとおりにやってくれないということもよくある話です。そうすると「あー面倒くさい、自分がもう一人いて部下だったら楽なのになあ・・」と思ってしまいます。
 自分が二人いて一緒に仕事をすれば確かに楽ですよね。同じことを考えているのだから説明の必要が無い、しかも自分と同じにやってくれる。
 忍者の知識、忍術の腕前を競う「甲賀流忍者検定」という試験があり、筆記試験、実地試験(手裏剣の腕前を競う)に、昨年は全国から142人が参加したそうです。こんな新聞記事を読んで、つい、分身の術が使えるようにならないものか、と思いましたが、はたと考えました。本当に自分の分身が会社の中にもう一人、いや10人いてうまくいくものだろうか?
 
 分身の術で現れた【自分】はきっと「おれが社長だ!」といい始めます。
 「おれは経理みたいな面倒なことはしたくない」とか「なんでボーリングの助手をしなきゃいけないんだ」とか言い出します。
 「ボーリング助手はきついけれど、わが社にとっては大事な仕事だよ。分身1号、君がやりなさい。経理は2号君がしなさい」
 「そんなに大事な仕事ならお前がやればいいではないか、不公平だ!」
 「いやいや私は本体で君は分身だろう。分身がやるのが当然だ」
 「分身といっても君と私は同じだ」・・・・
 仕事の前にこんな言い争いが延々と続くような気がします。
 会社は営利を目的にしているので、なるべく有能な人が効率的に動くことが望ましいのは言うまでもありません。けれども分身の術のようにまったく同じ人だけではうまくいかないのです。野球でよく「四番打者だけではチームはできない」といわれるのと同じですね。
 世の中がそうであるように、会社も相対的に能力の高い人もいれば低い人もいる、短気な人やのんびりした人、細かいところに気付く人や大雑把な人、などなどさまざまな特徴の人でできあがっています。そのそれぞれの特徴を生かしながら一緒に仕事をしていくしかありません。「自分と同じような人だけでやればうまくいく」という思いは幻想にすぎないし、また組織の発展を阻害していく要素にもなりかねません。
 それぞれの社員が自分の特徴と個性のいいところを伸ばしながら働いて行ける環境をいかに作っていくのか、ということはすべての会社に常に問われ続ける課題です。
 ところで、「分身の術」というと忍者マンガだけの世界のものと思われていますが、昔、駿河の国に伝わった「無極量情流」という古武道の流派の秘伝書に「真言の呪文を唱えて七人に分身する技」というものがあったそうです。本当かなあ・・・。