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仙台市奨学金返還支援補助金企業に認定されました

2021年02月24日

 昨年12月付で弊社が「仙台市奨学金返還支援補助金企業認定通知」を受けました。

 「仙台市奨学金返還支援事業」は、仙台市の産業を担う人材を確保し、若者が地元に定着することを目的とした制度です。支援対象になる学生さんに対し、奨学金返還支援対象企業として認定を受けた仙台市内の中小企業などへの就職を条件に、入社後3年間の奨学金返還を支援します。支援に必要な経費は、就職先になる対象企業と仙台市が折半するものです。

 弊社は、この制度を2021年度だけでなく、2022年度以降も継続する予定です。仙台市と協力して、仙台で働きたい学生さんの支援をしていきます。詳しい内容は、仙台市の【仙台で働きたい!!プロジェクト】に掲載されていますのでご覧ください。


ダムと地質調査(4)ダムの事故

2021年02月20日

 今回は過去に起きた代表的なダム事故を取り上げます。

海外におけるダムの事故

セントフランシスダム(1928年)

 アメリカ・カリフォルニア州で1928年に完成したアーチ式ダム。堤高約60m、堤頂長180m。初期湛水時に堤体が崩壊し、下流の住民約450人が死亡しました。原因は、左岸アバットメントが、岩盤中にあった古期大規模地すべりの上にあったこと、ダムの基礎幅が不足し、揚圧力に耐えられなかったことと判断されています。

マルパッセダム(1959年)

 フランス南部ヴァール県に建設されたアーチ式ダム。堤高66m、堤頂長22m。1954年に完成しました。1959年2月2日、堤体が完成して初めての大雨で満水状態になり、その16時間後に左岸基礎地盤が下流側に移動し、堤体が崩壊、決壊しました。下流の二つの村が濁流に呑み込まれ、421名が死亡しています。原因はダム左岸の岩盤に薄い粘土層があり、これが動くことでダムに亀裂が入ったことが原因とされています。この事故は岩盤工学やダムの基礎設計に必要な構造力学が飛躍的に発展するきっかけとなったと言われています。

バイオントダム(1963年)

 イタリア北東部ヴェネト州に1960年に完成したアーチ式ダム。堤高262m、堤頂長190m。ダムの貯水開始後、地すべりが頻発し、1963年10月9日、ダム上流で大規模な地滑りが発生し貯水池に流入しました。これにより津波が起こり、越流した水がダム下流のロンガローネ村を襲い、2,000名以上の人が犠牲になりました。ダム本体はほとんどダメージがありませんでしたが、ダムは放棄されてしまいました。この事故は、その後のダム建設において、地すべりの可能性を含め、周辺の地質を調査する重要性を認識させるきっかけとなりました。

ティーントンダム(1976年)

 アメリカ・アイダホ州に多目的ダムとして建設されたロックフィルダム。堤高93m、堤頂長930m。1975年に湛水し、1976年6月3日に漏水が確認され、その2日後、6月5日に堤体が崩壊し、死者11名、被害総額20億ドルと、アメリカで最悪のダム事故と言われています。盛土内部の侵食により右岸側着岩部に漏水が発生し、パピングによって破堤したものです。現在も史跡として崩壊跡地が保存されています。調査報告書では、設計、施工ミスと緊急時の対応の不徹底さと指摘しています。河床部の透水性の高さは建設段階から指摘されていました。

石岡ダム(1999年)

 台湾台中県石岡郷に建設された重力式コンクリートダム。堤高20m、堤頂長357m。1999年9月21日に発生したマグニチュード7.5の台湾集集地震の地震断層の変位により、右岸側が約7.6m隆起し、段差発生の直撃により堤体が決壊しました。この事故による人的被害は報告されていません。

日本におけるダムの事故

幌内ダム(1941年)

 北海道紋別郡雄武町に1940年12月に完成した発電用ダム。堤高21m、堤頂長162m。1940年11月に1年11か月という短期間で本体が完成しましたが、1941年6月6日に集中豪雨のため一気に水位が上昇すると、おびただしい流木がゲートに漂着してダムの放流機能を喪失しました。洪水はダム本体から越流し、水圧に耐えきれず本体中央部が崩壊し、決壊しました。このため下流部の幌内部落で60名が死亡しています。原因は粗悪なコンクリートを使用して建設したことと言われていますが、戦時中であり詳細な原因究明が行われず実態は不明のままとなっています。

平和池(1951年)

 1949年に京都府亀岡町に完成した農業用貯水池。堤高19.6m、堤頂長82.5m。1951年7月11日に京都府一帯に降った集中豪雨により、貯水池堰堤を越流し、決壊。下流の柏原地区で75名、亀岡町で21名が死亡しました。

 ため池の事故にはこれ以外に死者941名を出した愛知県犬山市の入鹿池決壊事故(1868年)、死者108名を出した京都府井出町の大正池決壊事故(1953年)などがあります。いずれも豪雨により堰堤が決壊したものです。

藤沼ダム(2011年)

 福島県須賀川市に1949年に完成した農業用アースダム。堤高18.5m、堤頂長133m。2011年3月11日の東日本大震災により堤体が決壊し、死者、行方不明者8名という大惨事となりました。最大地震動442ガル、50ガル以上の振動が100秒以上続き、この強振動によって堤体すべりが発生したとされています。藤沼ダムは2017年に同じ位置に再建されています。地震による貯水池、農業用ダムの決壊で死傷者が出た例は1930年以降世界で報告例がなく、極めてまれな事故と言われています。

 有名なダムの事故を取り上げましたが、ここで留意してほしいのは、事故の多くは完成直後の湛水時、あるいは満水になって短時間で発生していることです。ダムの堤体が完成後長期を経て経年劣化によって壊れたという事例はほとんどありません(正確には聞いたことがありません)。建設当時としては最新の技術で最大限の調査をして設計していたと考えられますが、結果から言えばダムの事故は当時の基準の甘さによる、ダムサイトおよびダム湖周辺の地質調査の不足と、それによる設計ミスが原因となっているのです。

 ため池の事故の原因は、大雨による越流がほとんどです。土堰堤は普通の堤防と同じで、水が越流すると堤体下部が浸食されて崩壊に至ります。ダムは堤体の越流を許さないように洪水吐あるいは余水吐を設けていますが、小型のため池は洪水吐を持たないものがあるため、豪雨により破堤に至ってしまったと考えられます。

 また、地震でダムが破壊された例は、藤沼ダムと活断層の直撃を受けた石岡ダム以外はほとんどありませんが、藤沼ダムの事故を受けて、全国でため池の耐震性照査のための調査が現在も行われています。

※ダムの写真はいずれもwikipediaから引用しました。


ダムと地質調査(3)ダム工事の流れ

2021年02月09日

 ダムは大変に大きな土木工事なので、ひとつのダムを建設するまで長い時間を要します。計画を立ててから完成するまで、20年から40年かかるというのが普通です。ダム技術者が「本体工事に取り掛かれば終わったも同然」というほど、実は本体工事に取りかかるまでの調査と地権者、地元との交渉に大変な時間がかかります。

 まず、ダムを造るために適した場所を選定します。望ましい場所は、なるべく少ない材料で目的とする貯水量を貯められる場所です。広い集水域を持ち、なおかつ河谷の幅が狭く、堅固な岩盤でできている渓谷ということになります。そして、ダムを作った後に水が漏れないところです。こうした場所を選定し、詳細な地質調査、環境調査を行います(調査については後で詳しく説明します)。

 建設工事の流れは次のようになります。

①工事用道路の建設 バックホーやクレーンなどの大型重機、セメント、砂利などの資材を運搬するための道路です。古い道路を利用することが一般的ですが、拡張したり、路盤を補強することも少なくありません。重量物や大きな寸法のものを運ぶため、急なカーブは道を広げ、橋が重量に耐えられなければ架け替えることもあります。

②川の迂回 水の中ではダムを建設できないので、工事中は一時的に河川の水を迂回させる「転流工」と呼ばれる河川処理が必要になります。この方法には「仮排水トンネル」「仮排水開渠(暗渠)」「半川締め切り」の3方式があります。河川流量、川幅、経済性を考慮して決めます。フィルダムや川幅の狭い渓谷では一般的に「仮排水トンネル」を採用します。ダム本体が完成すると、仮排水路は締め切り、コンクリートで埋めてしまいます。

        転流工・仮排水トンネル 

③基礎岩盤掘削 ダム堤体を新鮮な硬い岩盤に建設するため、土砂や風化した岩盤を取り除く掘削工事を行います。掘削は発破や大型重機を使いますが、最後は人力や小型機械により、基礎岩盤を緩めないように「仕上げ掘削」し、緩んだ部分は入念に除去します。清掃後に、コンクリートダムでは岩盤とコンクリートを密着させるためにモルタルを敷き込み、フィルダムの場合も、コアが載る岩盤とコア材を密着左折ために、スラリー処理と呼ばれる、粘土で岩盤の局部的な凹凸を埋め、水漏れを防ぐ処理を入念に行います。

           基礎岩盤掘削

④コンクリートプラント・骨材製造設備の建設 ダムのコンクリートは一般のコンクリートよりも粗骨材(石ですね)がはるかに大きく、水量の少ない非常に硬いコンクリートを使用します。また、大量のコンクリートを使用するため、ダムの建設現場でコンクリートを製造する「バッチャープラント」と呼ばれる設備を建設します。また、近くの原石山から採取した岩から骨材を製造する設備も建設します。

⑤堤体の建設 いよいよダム本体の盛り立てです。コンクリートダムは一般的なコンクリ-ト構造物のように「型枠にコンクリートを流し込んで作る」というよりも「コンクリートのブロックを積み上げていく」というイメージで作られていきます。通常1回あたり1.0m~1.5mを単位とした層を何層にも分けて積み重ねていくという手法をとります。この方法は、施工上の都合と温度ひび割れを発生させないためです。

         堤体建設中のダム

 コンクリートは、打設後水和反応を起こしながら硬化しますが、この時にコンクリート内で温度が上昇します。一度に大量のコンクリートを打設すると、温度が上がりすぎて堤体の中と外の温度差でひび割れが発生してしまうからです。

 一方フィルダムは、堤体内部の「コア(水漏れを防ぐ粘土層)」とその両側のフィルター、ロックをほぼ同じ標高で盛り立てていきます。この中で特に重要なのが遮水層であるコアの締固めです。一般的には20~30Cmづつ盛り立てて振動ローラーで締固めます。

⑥原石山の掘削 原石山からはコンクリートの骨材や、ロックフィルダムのロック材を採取します。なるべくダム堤体に近いところから採取することが望ましいのですが、近くにない場合は、経済性の面からダム形式を変更する可能性も出てきます。

⑦グラウチング 基礎岩盤の隙間にセメントミルクを注入し、充填する作業をグラウチングと呼びます。これはダム基礎岩盤の「みずみち=亀裂」をふさぎ、基礎を一体化し、弱層部を補強するためのものです。ダムの水漏れ防止と、基礎岩盤の補強のために重要な工事です。

          グラウチング作業

⑧付け替え道路の建設 ダム湖に沈む古い道路に変わる新しい道路の建設も必要になります。これはダム湖よりも高い位置に建設します。ここでは切土や盛土、トンネルや橋梁の建設も行われます。

⑨移転する地元の人たちのための代替用地の確保と、宅地の建設

 これらの工事を、本体工事を中心にしながら並行して進め、最後に管理施設の建設、湛水試験を行い、安全を確認して完成となります。こう書いてくると、ダムを建設するためには実に多様な工事が必要なことがわかります。

 先にも書いたとおり、ダムは河川管理施設等構造令の技術基準に基づいて設計され、建設されるのですが、基準が作られてきた背景には、残念ながら事故の教訓があります。ダムの事故が起きれば大変大きな被害が発生します。過去に実際に起きた事故を教訓に、安全に建設するための基準が整備されてきたのです。次回はこの過去のダム事故について取り上げます。


ダムと地質調査(2)ダムの形式

2021年01月23日

 ダムの形式について説明します。形式について理解しておかないと、この後のいろいろな説明が分かりにくいからです(よくご存じの方は飛ばしてください)。

 鳴子ダムのようなアーチ式の美しいダムや、釜房ダムのようなどっしりとした重量感のある重力式コンクリートダムなど、いろいろな形式がありますが、当然のことですが設計者が自分の好みで設計しているわけではありません。ダムの形式は、建設する場所の地形・地質と密接な関係があり、さらに経済性も考慮して、その場所に最も適した形式を選択して建設されています。

 ダムの形式は大きくコンクリートダムとフィルダムに分けられます。最近はこの中間的な台形CSGダムが新しい形式として注目されています。以下、宮城県にあるダムを例に取り上げながら説明します。

(1)コンクリートダム

①重力式コンクリートダム

 

         釜房ダム

 堤体がコンクリートで作られ、堤体自体の重量で水圧に抵抗する形式のダムです。構造は一般的には直線で、断面はほぼ直角三角形になっています。日本のハイダムはこの形式が最も多く採用されています。宮城県内でも釜房ダム、宮床ダム、南川ダムなどがあります。

 ところで、一般のコンクリート構造物は鉄筋コンクリートで作られていますが、ダムでは部分的に複雑な構造の付帯設備以外に鉄筋が入っていません。これはダム堤体には圧縮力のみがかかり、引張力がかからないため鉄筋で補強する必要がないからです。コンクリートダムは日本では建設から120年程度たっており、コンクリートの耐用年数について実情を観察していますが、コンクリート劣化の最大の原因である鉄筋がないため、相当長い耐用年数が見込まれています。

 蛇足になりますが、古代ローマでは、現在のポルトランドセメントと若干違いますが、ローマンコンクリートを用いて建築物を作り現在でも残っています。有名なものにハドリアヌス帝(映画「テルマエ・ロマエ」で市村正親さんが演じていました)が建設したパンテオンがあります。

②アーチ式コンクリートダム

 

         鳴子ダム

 断面が上流へアーチ状に張り出した構造を持つコンクリートダム。黒部ダムや鳴子ダムなど、美しい姿を見せています。アーチ構造を利用して、水圧を両岸に伝えることで支えています。重力式ダムに比べ断面が薄く、コンクリート量を少なくできますが、両岸の岩盤が堅固でなければ建設できません。

③マルチプルアーチ式コンクリートダム

         大倉ダム

 ごくまれな形式ですが、宮城県に大倉ダムがあります。アーチ式ダムの一種で、両岸の岩盤が堅固でも河谷が広く単一なアーチで構築できない場合に用います。大倉ダムは日本で唯一のダブルアーチ式ダムで、中央に岩盤の代わりになるコンクリートのアバットがあり、二つのアーチをつないでいます。

④中空重力ダム、バットレスダム

 どちらも重力式コンクリートダムよりも使用するコンクリートを少なくするために設計された、複雑な構造をしたコンクリートダムです。実用例は少ないのでここでは省略します。

(2)フィルダム

 フィルダムは土砂や岩を用いて作ります。コンクリートダムに比べ堤体の傾斜が緩く、底面積が広いため、ダムの荷重が分散され、コンクリートダムよりも地盤の悪いところに建設できます。また、コンクリートに比べ剛性が低く、地盤の変化に対応することができます。

①ロックフィルダム

 

         七ヶ宿ダム

 土や岩石を堤体材料として盛り立てて作るダムです。中央遮水型と表面遮水型があり、中央遮水型は、堤体中央に水を通さない粘土層を盛り立てることによって、表面遮水型は、堤体の上流側表面にコンクリートやアスファルトを舗装することで遮水します。宮城県内では七ヶ宿ダム、七北田ダム、漆沢ダムなどがあります。

②アースダム

 

         村田ダム

 古くから用いられてきた形式で、土砂を盛り立てて作るダムです。堤体の材料を得ることが容易ですが、高いダムを作ることには向いていません。ため池はほぼこの形式で作られています。嘉太神ダム、村田ダム、化女沼ダムなどが宮城県内にあります。

(3)台形CSGダム

 日本で開発された最も新しい形式のダムです。CGSとは、Cemented Sand and Gravel の頭文字をつなげたもので、「セメントで固めた砂礫」という意味です。現地で容易に手に入る砂礫を貧配合のセメントで固めた堤体を、台形型に盛り立てて作ります。骨材を選定せずに、粗悪な骨材も混合することで経済的に建設できることが最大の利点です。台形状にするのは、従来の直角三角形のコンクリートダムに比べ、構造上必要強度を小さくできる、と説明されています。宮城県では、現在調査が進められている鳴瀬川ダムがこの形式で建設される予定です。

※ダムの概念図はいずれも西松建設・ダムプロジェクトチーム「巨大ダムの”なぜ”を科学する」(アーク出版)から引用しました。また、ダムの写真は、各ダムの管理事務所ホームページから引用しました。


ダムと地質調査(1)ダムとは何か

2021年01月12日

 2020年7月の集中豪雨(令和2年7月豪雨と名付けられました)では、九州から中部地方、さらに山形県まで大きな被害が出ました。特に7月3日から4日にかけて、熊本県人吉市を中心に球磨川流域で死者65名、行方不明者2名という甚大な災害となりました。

 人吉盆地は球磨川本流と大支流の川辺川の他、小纏川、胸川、鳩胸川、万江川などの中小支流が集中し、そこから八代市の河口まで長い狭窄部が続く地形的な特徴があります。このため人吉盆地は水害の常襲地帯となっています。

         2020年7月豪雨による人吉市街の氾濫状態

 今回の水害をきっかけに改めて川辺川ダムの是非について議論が起こっています。川辺川ダムは1966年(昭和41年)から国交省直轄ダムとして事業が始まり、用地の取得、家屋の移転、付け替え道路建設などもほぼ終わり、1999年には仮排水トンネルが完成していました。しかし地元の反対が根強く、2009年に事業が休止したままになっています。(2020年11月に、蒲島熊本県知事は川辺川ダムの建設を容認する発言をしています)

 川辺川ダムがあれば今回の水害を防げたのかどうかについては、様々な意見が噴出し、ダムの必要性について世論が沸き立ちました。災害が起こってしまったことは残念ですが、改めてダムの役割が注目されることは、今後の治水のあり方を考えるうえで決して悪いことではありません。

 地質調査の世界では「ダムの調査はボーリングの花」と呼ばれたこともあるほどで、私たちも数多くのダム現場で仕事をしてきました。しかし一般的に大きなダムは山奥に建設されるものなので、直接ダム建設に係る人(とダムマニア)以外は、ダムがどういう役割を果たしているのか、どう建設されるのか、またそのためにどのような調査が行われるのか、あまり知られていないように感じます。

 そこで今回はダムと地質地調査について述べます。詳細は専門書や、大手の建設コンサルタント会社、ダム便覧のホームページを見ていただくとして、経験に基づいてなるべく具体的に書きたいと思います。

 ダムとは何か。広辞苑はダムを次のように説明しています。

「ダム:発電、利水、治水の目的で水をためるため、河川、渓谷などを横切って築いた工作物とその付帯構造物の総称。堰堤」

 ダムと名の付くものはこれ以外に砂防ダムや鉱山で採掘した岩石の残りかすを貯める鉱滓(こうさい)ダムがありますが、ここでは水をためることを目的としたダムに限定して話を進めます。

 発電用、治水用の巨大ダムも、取水のための堰堤も、ため池もすべてダムということができます。これらは水をためるための構造物という本質では何ら変わりありません。ダムの起源は水をためて利用する堰堤で、要はため池です。現存する世界最古のダムは紀元前1300年頃に作られたといわれるシリアのナー・エル・アシダム(堤高2m、堤頂長2,000m)で、現在も上水道の取水のため使われているそうです。

 日本でも7世紀前半の飛鳥時代に大阪府に狭山池、8世紀初頭の大宝年間に香川県に満濃池が築かれています。狭山池の現在の堤高は18.5m・堤頂長997m、満濃池も堤高32m・堤頂長155mの立派なダムです。どちらも建設以来何度も修理されて現在も使われていますが、古くは行基、空海が改修にかかわったと伝えられています。仏僧がこうした土木事業にかかわっていたことは大変興味深く、当時の仏教のあり方をうかがわせます。

            香川県にある現在の満濃池

 こうした大型のため池だけでなく、日本全国には約17万のため池が存在していますが、河川法では大小さまざまなダム、ため池について明確に分けています。堤高15m以上のものをダム、それ以下のものを堰(せき)として区別し、15m以上のダムについては河川管理施設等構造令で詳細な技術基準を定めています。これは15m以上のハイダムは、目的はいろいろでも貯水量が多く、万一破堤することがあれば大きな被害が発生するからです。