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地質調査という業種の特徴(3)「人」が財産

2022年07月07日

 「成長できない日本の中小企業など潰してしまえ」と暴論を述べる某外国人経営者がいますが(この意見を読んだときは頭に血が上りました)、中小企業の是非を言う前に、ボーリング業界が中小企業で構成されているのには、それなりの理由があります。

 まずそもそも業種としての規模が小さい。地質調査業の市場としての投資額は、全国地質調査業協会連合会の統計によると国等の公共機関、民間合わせて令和元年度で約740億円です。建設コンサルタント業務にも地質調査が含まれますので、この倍としても1,500億円、多く見ても2,000億円くらいが業界としての規模ではないでしょうか。自動車産業は57兆円、アパレル産業は5兆円と言われますので、その規模の小ささがわかります。また、その消費者は行政と建設業者が主です。地中熱を利用したヒートポンプも徐々に広がっていますし、こうした新たな技術の開発と市場を広げる努力は必要ですが、まだ限定的です。メーカーなどと違って優れた商品を作って消費要求を喚起し、市場を拡大するということが難しい(というよりできない)のです。

 市場規模が小さいわりに範囲が広く、日本全国にわたって実際に技術者がその現場に言って作業する必要があります。事務所にいたり在宅ワークでは仕事にならないのです。したがって事業規模を大きくして全国展開するするよりも、行動範囲を狭くしてそれぞれの地域で業務を行う方が合理的であり、収益性が高まります。また、それぞれの地域に特有の地質に対応した技術を習得しておいた方が有利なことは言うまでもありません。

 もちろん非常に高い技術を持ったボーリング技術者が、難しい現場を施工するために全国から指名を受けて呼ばれるということはあり、それは素晴らしいことなのですが、公共事業の中でベラボーに高い金額で請け負うことはありえないのです。

 大手あるいは中小の元請の調査・コンサルタント会社とボーリングを請負う専門下請け業者という二重構造は、今後も大きく変わることはないと思いますし、それは合理的でもあります。

 話を元に戻します。市場の環境が大変化しない限り、われわれの業界から前澤友作さんのような大金持ちが生まれてくることはおそらくないだろうと思います。もちろんだからと言って優秀な人がいないというわけではありません。この業界に入ってくる人は指向するものが違う人が多いというだけです。一方、血で血を洗う生存競争の中で企業の存続を図っていくことも少ないでしょう。

 会社の資産には、現金などの流動資産、トラックやボーリングマシン、社屋などの固定資産がありますが、実は最大の資産は人、つまり社員です。人=技術者の育成にかかる時間と費用は莫大であり、私たちの事業はほとんど人の要素で出来上がっていると言っても過言ではありません。新たな技術の開発ももちろん大切ですが、技術者=人をいかに育てていくのかということに、私たちが最も力を注いでいかなければならない所以です。

 建設業でもI-construction(アイコンストラクション)やDX(デジタルトランスフォーメーション)による、自動化や効率化が進もうとしています。これらはそれ自体が目的ではなく、少子高齢化に対して、いかに人材を確保し、育成しやすい環境を整えるのかという課題への対応であり、最後はやはり「人」に尽きるのだと思います。