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再度、世代について(1)

2022年08月02日

 しばらく前になりますが、「世代について」という文章で、いつの時代でも自分たちより後の世代はしっかりしていないとか、だめだとか批判するけれども、結局それは繰り返しで、どの世代の人も年齢を重ねるごとに成長していく、と書きました。この「世代論」についてもう少し考えてみます。というのも、先日ある求人サイトの営業マンと話していて考えさせられることがあったからです。

 営業マン氏が言うには、今の若い世代にはミレニアル世代(1980年~1995年に生まれた世代)とZ世代(1996年~2015年に生まれた世代)があり、それぞれ違った感性がある。ターゲットとする世代によって求人情報の出し方が変わってくるということです。ミレニアル世代はインターネット環境が飛躍的に進んだ時代に成長し、Z世代はデジタルが当たり前の、デジタルネイティブな世代だそうです。営業マン氏はちょうどその中間くらいの年齢でしょうか。

 という説明を延々と聞いていて、ついつい「人ってそんなに違うものかなあ。例えば古代ローマ人だって慣れれば今の世界で生きていけると思うよ」と言ってしまいました。

 すると営業マン氏は、ちょっとムッとして「失礼ですけど、それでは江戸時代の人のように切腹できますか?」

 私「それはできないね」

 というわけで、営業マン氏の説明をおとなしく聞きました。でもね・・、やっぱりこういう風に人を世代で区分けすることには、何か腑に落ちないところがあるのです。

 営業という立場からは、いかに商品に興味を持たせ、購買意欲を掻き立てるのかが勝負になるので、その時代の感覚にマッチした「キャッチコピー」を作ることが極めて大事になると思います。その意味で思い出されるのが西武百貨店の「おいしい生活」というコピーです。これはコピーライターの糸井重里さんが作った1980年代を代表する広告でした。私はいたって流行に疎い人間ですが、この言葉はよく覚えています。

   西武百貨店のポスター「おいしい生活」

 Wikipediaの解説によると「衣食住にとどまらず、余暇生活を含めたあらゆる場面で、物質的・精神的・文化的に豊かな生活を提案する、日本の広告史に画期をもたらした名コピーであった」とされています。

 1980年代がどういう時代だったかというと、ひと言でいえば日本が経済的にアメリカに追いついた、円がドルに追いついた時代でした。明治維新以降、西欧に追いつくために努力を重ね、さらに第二次世界大戦の敗北から復興し、追いつけ追い越せと頑張ってきた結果、ついに追いついたと実感できた(錯覚だったのかもしれませんが)時代たっだのです。さらにその後日本はバブル経済の時代に、日本の土地の価格でアメリカ全土を買えると言われるまでになります。こうした「豊かな時代」とその感覚を象徴するのが「おいしい生活」だったのです。

 それぞれの時代には特有の感覚があります。日中戦争から太平洋戦争までの時代、戦争を全否定した昭和20年代、その後の昭和30年代から40年代の高度経済成長期、反転してオイルショック以降の低経済成長時代などなど、それぞれの時代を特徴づけるものは違い、その時代に子供から青春時代を送った人たちの感覚が違うことは十分理解できます。

 とはいえ、同じ時代の人がみな同じ感受性を持っているかといえば、やっぱり人それぞれ違っています。先ほどの「では切腹できますか?」という件でも、江戸時代の人がみんな平気で切腹したわけではありません。切腹は当然武士だけのものであったし、武士であっても切腹することは大変なことだったはずです。

 当たり前のことですが、人はそれぞれ同じような面を持ちながら、違った個性を持っています。どちらの面に目を向けるか、同質性を重視するのか、異質性を重視するのか、そこに見る人の個性が現れます。世代間の違いを強調する人は、人の異質な面を重視しているように感じられます。