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地質調査という業種の特徴(2)その歴史

2022年06月03日

 地質調査業やボーリング業は「老舗」が多い業界です(京都、奈良のように数百年の歴史がないと老舗とは言わない、というところにはかないませんが)。もちろん新しい会社もありますが、もとからあった会社の技術者が分かれて新たな会社を興した、という以外にスタートアップで急成長した企業はあまり聞いたことがありません。そもそもあまりもうからない、しかも作り上げる(技術者の養成)のに時間がかかる業種にあえて参入しようという人が少ないのは道理です。

 しかし、何でも物事のいいことと悪いことは裏表ですから、これらのことによって参入障壁が高くなっていることは、次のことを意味しています。

①競合する相手が少ない。

②価格が安定していて、大きく損失を出すことが少ない。

③技術者を育成できればしっかりとした成果が期待できする。

 つまるところ、大儲けは期待できないが、きちんとした仕事をしていれば安定した経営が期待できるということですね。ちなみに、収入の高い日本の経営者(配当金を含む)ベスト500の中に、建設コンサルタントの経営者は誰もいませんでした。建設業では、清水建設の社長、会長の2名が入っているだけです。1番高いのはソフトバンクの孫社長、2番目はユニクロの柳内社長です。もっともこの2人はベラボーに高くて、別格です。(東洋経済新報より)

 ところで、地質調査業の歴史を見てみると、興味深いものがあります。

 建設コンサルタント協会の「建設コンサルタントの歴史」には次のように書かれています。

「戦前における生活基盤や産業基盤などの社会資本の整備は、内務省等行政によって直接実施されていました。その中には勿論、企画・調査・計画・設計・施工などの一連の業務が含まれています。

 戦後復興のための社会資本整備に対する要求が高まり、その事業量が急速に拡大するとともに、一連の業務のうち、企画を除いたものについては民間活力の活用が始まりました。」

 内務省だけでなく、鉄道省、電力会社(当時は日本発送電)も、それぞれ調査・設計技術者、ボーリング技術者を直接雇用していたのですが、戦後、こうした技術者を民間に分離したのです。これは昭和20年代に始まり、30年代に本格化します。全国地質調査業協会は昭和31年に、建設コンサルタンツ協会は昭和36年に結成されています。

 蛇足ですが、当社の創業社長は、日本発送電(のちに東北電力に分割)のボーリング技術者から出発しました。

 大手の地質調査会社は、石炭などの鉱山の資源開発のためのボーリング会社が戦後、調査設計に進出した会社と、内務省、鉄道省などの技術者が民間の会社を興したものの2種類がありますが、今ではほとんどが建設コンサルタントを中心業務にしています。

 当時ボーリング技術者は、こうした会社の社員としてボーリング作業に従事していました。しかし、1960年代後半から70年代にかけて、調査・コンサルタント会社は、次々とボーリング部門を分離、独立させ、外注化していきます。維持経費のかかるボーリング部門を分離し、それぞれの採算性をアップさせようとするものだったと考えられます。

 このことによって、調査業務全体を管理する調査・設計コンサルタントとボーリングを専門とする小会社に大きく二分されました。現在では、石油や地熱などの資源開発などに関わる数社以外、ボーリング会社はほとんど全て数名から数十名の小規模会社です。


弊社創業者小林義夫の社葬を執り行いました

2022年05月21日

  弊社創業者、元取締役会長の小林義夫が5月15日朝、肺炎のため逝去致しました。満92歳でした。小林家と弊社の合同葬として、5月18日通夜、5月19日葬儀を滞りなく済ませましたのでお知らせします。

  小林義夫は昭和44年に弊社の前身である有限会社開発地学社を設立し、その後平成8年まで27年にわたり株式会社東開基礎コンサルタントの代表取締役を務めました。代表引退後も取締役会長、名誉会長として弊社を後見してきました。弊社の基礎を築き、現在の発展につなげたのは小林元会長の力だったと考えております。

 通夜、葬儀にご参列された皆様、弔電、生花をお送りいただいた皆様には改めて厚く御礼申し上げます。また、今後とも弊社へのご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします。


地質調査という業種の特徴(1)参入障壁

2022年05月11日

 昨年末、前澤友作さんが民間の日本人として初めて国際宇宙ステーションに滞在し、無事帰還したことが大きな話題となりました。宇宙ステーションの生活が紹介され、これまでの科学者による滞在よりも、ぐっと身近に感じられました。

 この宇宙旅行の費用は、同行する社員の分も含め約100億円だそうです。さすが、アパレル通販サイトZOZOTOWNの社長として大成功を収めたお金持ちですね。ちなみに、2021年フォーブス誌によると、前澤さんの純資産額は約19億ドル、日本円にして2,147億円(1ドル113円として)だそうです。

 ZOZOTOWNの成功は、前澤さんの経営戦略とアイデアの成功と言っていいものです。そもそもネット通販でのアパレルモデルは難しいと言われていました。大体私たちは服を買うときには試着をして決めます。靴も同じですが、メーカーによってサイズは少しずつ違うため、注文してみて合わなかったということがよくあります。なので、ネットでカタログを見て注文するよりも店頭で試着して買う方が安心です。

 前澤さんのアイデアは、実際に着てみてあわなかったら返品可としたこと、自社に在庫を置かず加盟するショップからの委託販売にして、受託手数料を取るという点にあったそうです。さらに、採寸のためのZOZOスーツを配布するという画期的な手法も展開しています。

 前澤さんは発想が豊かで、決断力のある優秀な方だと思います。こうしたアイデアも、成功した後からは「なるほどうまい考えだ」と思いますが、その前は「本当にうまくいくかいな?」と感じられますよね。

 さまざまな業種には、新たに事業を始めやすいものと、始めにくいものがあります。この事業への入りやすさを「参入障壁」と呼びます。始めやすい業種は参入障壁が低い、始めにくいものは参入障壁が高いと言います。

 参入障壁が低い業種としては、外食産業がよく上げられますが、IT業界や物販業界も特にインターネット、Webサイトの普及により参入しやすくなったと言われています。要は、初期投資額が少なく、アイデアと能力次第で事業を起こしやすい仕事です。アパレル業界も関連の製造インフラが整っているので、ある程度の資金があれば自社製品を作るのは容易だそうです。

 前澤社長の事業も、アパレルと物販の組み合わせなので比較的容易に始められます。しかし、容易に始められる参入障壁の低い事業は、当然ですが、他にも参入する人が多く、競争が激しくなり、誰でも成功できるわけではありません。こういう血で血を洗うような競争の激しい市場を「レッド・オーシャン(赤い海)」と呼ぶそうです。レッド・オーシャンを泳ぎ切って成功をおさめ、莫大な資産をえるために前澤さんは、さまざまな画期的なアイデア、手法を取りました。

 さて、なぜこんな話を長々と述べたかというと、では、われわれ地質調査業界、ボーリング業界はどうかということを考えてみたいからです。

 ボーリングだけでなく、建設業、建設関連業は相当に参入障壁が高い業界です。なぜか?

①国や地方自治体の競争入札には参加資格が必要で、その条件に施工実績、業務実績が求められます。

②業務価格には発注者(国や自治体)の基準があり、その枠内に収めなければなりません。また、民間の業務もそれに準じた価格があります(建設物価)。商品の品質(技術力)がよくても、基準の価格以上の金額で売ることが難しい、つまりあまりもうからない。

③技術者の養成に時間がかかる。ボーリング技術者もそうですが、設計、調査の技術者も、まず独り立ちできるまで5年、一人前になるまで10年かかると考えて間違いありません。

 地質調査も建設コンサルタントも扱う商品は技術です。解析ソフトや設計ソフトも新たに開発されてきていますが、その背景にある考え方を理解していないと扱えません。また、対象になる素材=それぞれの現場は同じように見えても、ひとつひとつ違います。多くの現場を経験しないと、一人前の技術者として業務をこなしていけないのです。


新年度になりました

2022年04月19日

 長かった冬も終わり、ようやく温かい日差しが毎日届くようになりました。この冬は例年になく積雪が多く、1、2月の現場では雪崩で帰れなくなったとか、吹雪で現場に行けないといったトラブルがありました。

 先日、岩手と福島に出かける機会がありました。岩手は桜、コブシが満開、福島では桜は散ったものの桃がちょうど見ごろになっていました。

          岩手で咲いていたコブシの花

             福島市の桃畑、きれいです。

 暖かく仕事がしやすい時期になってきたら、仕事が切れてしまいました。会計年度が変わり、新年度の業務が始まるまでの端境期であり、例年のことではあります。とはいえ、年度末の工期までに終わらせようと豪雪の中で頑張っていたのに、暖かくなると仕事がなくなるというのは「なんだかなぁ・・」と思ってしまいます。

 国交省などの発注者も「発注の平準化」により工期の集中を避けることを目指す、としていますが、実際にはなかなか進んでいません。もっと働く人の気持ちを汲んで本格的に進めてほしいところです。

 2年前から続いている新型コロナウィルス感染症の流行も、ワクチン接種が進み昨年末にはだいぶ落ち着いてきたようでしたが、新たにオミクロン株が現れてから第六波の流行がなかなか沈静化しません。私たちは外仕事メインなので、比較的影響が少ないと思いますが、飲食業や観光業など影響の大きい仕事の方は本当に大変です。

 今年はさらにロシアのウクライナ侵攻という大事件が起こりました。1989年のベルリンの壁崩壊から1991年ソ連崩壊までの一連の出来事によって冷戦が終わり、もはや正規の国どうしの戦争が起きることはないだろうと思っていましたが、とんでもないことが起きたものです。長引けば日本経済への大きな影響も必至です。一日も早くこの悲劇が終わることを願うばかりです。


「地学を国民教養に!」

2022年03月23日

 これまでこのブログの中で、地形を知ることが防災の基礎になる、ということを何度か書いてきました。しかし私ごときが言ってもあまり説得力がないなあ、と感じてもいます。そこで今回は、その道の権威の方の文章を引用して、応援してもらおうと考えました。

 以下に掲載するのは、鹿児島大学名誉教授・岩松暉(あきら)先生が、2018年10月13日に、東京地学協会秋季講演会(熊本大学百周年記念館で開催)で行った特別講演「地学を国民教養に!」からの抜粋です。

 岩松先生は、鹿児島大学理学部で応用地質学、特に防災のための地質学の考え方を教えられてきました。また、日本のジオパークの生みの親でもあり、広く地学教育の必要性を訴えてきた方でもあります。学術論文だけなく、ユーモアのあるエッセイも数多く書かれていて、専門外の方でも親しみやすく読めると思います。何か「他人のふんどしで相撲を取る」ようで気が引けるのですが、ぜひご一読ください。

 なお、本文はhttp://www.geog.or.jp/files/autumn_h30_01a.pdf からご覧になれます。また岩松先生のホームページはhttp://fung.html.xdomain.jp/index.htmlです。

 今年7月の豪雨(平成30年西日本豪雨)では、西日本で甚大な被害が出ました。一番問題になったのは避難指示に従わず、犠牲になった方が多かったということでした。真備町では9割が自宅で亡くなっていたそうです。川が合流するところでは氾濫が起きやすいのは地学の常識で、真備町のハザードマップにもチャンと描かれています。しかも1976年の台風17号で水害があったのです。広島県では犠牲者の7割が土砂災害警戒区域内で亡くなっています。自分の住んでいる地域の地質地形的な特徴を知っておいていただきたいものです。(中略)

 豊後街道や律令時代の古代官道は、今回の地震(平成28年熊本地震)で被害を受けなかったそうです。熊本地震で土砂崩壊が多かったところは、立野の峡谷部と外輪山のカルデラ壁です。これら地学的に危険な場所を見事に避けているのです。また、カルデラ内では、湿地帯を避けて高燥な自然堤防や扇状地の微高地を利用しています。やはり昔の人はどこが危ないか知っていたのでしょう。防災対策も、現在のような力づくで抑え込む自然征服的やり方ではなく、自然の仕組みをうまく利用して軽くいなす方式でした。石塘(いしども)など加藤清正の治水工法はその典型です。(中略)

 以上、最近の自然災害の例を挙げましたが、災害に対処するには、孫子の兵法が参考になります。例の「彼を知り己を知れば百戦危うからず」です。今まで防災というと、斜面崩壊のメカニズムとか、地震とプレートテクトニクスとか、災害現象そのもの、いわゆるハザードの知識の啓発が主でした。災害予知も東海地震説以来、何時起きるのかという時間的予知ばかりが注目され、どこが危ないか、といった空間的予知が軽視されてきました。結果的に、災害は気象庁がやるもの、救助は消防と自衛隊と、御上任せの風潮を生んでしまいました。しかし、熊本市の人口74万人に対し、消防職員は810人です。火事にはこれで良いでしょうが、地震のような同時多発災害にはお手上げです。市民一人ひとりが、自分の住む地域の自然の成り立ちと自然の仕組みを理解して、自らどう対処するか日頃から考えておくことが大切です。地学の知識を身につけておかなければならないのです。