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信濃川についていろいろ(1)信濃川とフォッサマグナ

2024年03月18日

 日本の東西で文化や言葉が大きく違っています。例えばお正月用の塩魚は、東では鮭、西ではブリが使われます。新潟でも、下越村上では鮭ですが、佐渡から西はブリ、長野でも東北信濃では塩鮭、伊那、木曽地方は塩ブリ。肉ジャガは東では豚肉、西では牛肉。正月の雑煮は西では丸餅、東は角餅だそうです。言葉も新潟市あたりまでは東北弁に近い感じがしますが、糸魚川まで行くとなんとなく関西弁に近くなり、富山では明らかに関西の言葉になります。

 こうした言葉や文化の境界が糸魚川―静岡構造線付近にあるとよく言われます。この説にどれだけ説得力があるかよく分かりませんが、こと地質についてはフォッサマグナが東西日本を分ける境界であることは間違いありません。

 今回から信濃川について何回かにわたって書いていきますが、信濃川について考えるとき、フォッサマグナについて触れないわけにはいきません。信濃川の流域はフォッサマグナ北部に重なり、その特徴はフォッサマグナに規定されているからです。

 フォッサマグナとは、下図に示すように、本州中央部を南北に横断する細長い地帯です。その西縁は糸魚川―静岡構造線ですが、東の縁については諸説ありまだ決着がついていません。しかし、概ね越後平野と越後山脈の境界から、関東では利根川沿いに千葉方面につながっていると考えられています。

            フォッサマグナ位置図

 フォッサマグナが東西日本の地質的境界と呼ばれるわけは、その西側にある飛騨山脈、木曽山脈、赤石山脈(中央山岳地帯)と、東側にある越後山脈から八溝山地が中~古生代の古い地層からできているのに対し、フォッサマグナが新生代、特に中新世以降の新しい時代の堆積物と火山噴出物でできているからです。その堆積層の厚さは6,000mを越えると想定されています。フォッサマグナによってその東西の地質が分断されているのです。

           フォッサマグナの断面図

 フォッサマグナは、日本列島の形成と密接に結びついています。日本列島はおよそ2,000万年前にユーラシア大陸から別れ、約1,500万年前に現在の位置に移動してきました。その時西日本と東日本は分裂し、西日本は時計回りに、東日本は反時計回りに回転しながら移動し、その間には深い海が生まれました。その海を陸地から流入する土砂と、海底火山の噴出物が埋めていきました。

 一方移動を終えた日本列島には、これも拡大を終えたばかりのフィリピン海プレートが沈み込みを開始しました(日本列島の移動とフィリピン海プレート=四国海盆の拡大も密接に結びついていると考えられていますが、これに触れ始めると際限なく長くなるので、この話は省略します)。フィリピン海プレート上の伊豆・小笠原諸島も移動しますが、軽い地殻でできた島は沈み込むことができず、日本列島に衝突、付加していきました。これが富士山の南にある御坂山地、丹沢山地、伊豆半島です。伊豆半島が日本列島に衝突したのはおよそ100万年前と考えられています。これらの衝突した伊豆諸島とその周辺に堆積した地層が南部フォッサマグナになりました。

 フォッサマグナ地域にはその中央部に南から富士山、八ヶ岳、北に妙高山、新潟焼山などの火山と、その間に筑摩山地があり、東西に分けられます。この中央山地の隆起はおよそ300万年前から始まりましたが、南からの伊豆諸島の衝突と、東からの太平洋プレートによる圧力によるものと考えられています。

 さて、では改めて信濃川の流路と流域を見ていきましょう。信濃川は長野県では千曲川、新潟県では信濃の国から流れてくるので信濃川と呼ばれます。

         信濃川流路図(国土地理院地図を編集)

 千曲川本流は山梨(甲斐)、埼玉(武蔵)、長野(信濃)三県の県境にある甲武信ケ岳を源流部として、八ヶ岳、浅間山などからの支流を集めながら佐久盆地、上田盆地を北流して、長野盆地(善光寺平)で大支流の犀川に合流します。

 北アルプスを源流とする高瀬川、梓川と中央アルプス木曽駒ケ岳を源流とする奈良井川が松本盆地で合流し犀川となります(実は犀川の方が千曲川よりも流域面積、流路長ともに大きいのです)。高瀬川、梓川はまさに糸魚川―静岡構造線上を流路としています。松本盆地から筑摩山地を横断した犀川と長野盆地で合流した千曲川は、中野―飯山盆地を通って新潟県境の津南町に抜けますが、その間に中野市立ヶ花、飯山市戸狩の二つの狭窄部を通過します。この二つの地点が地形的に水害の要因になっています。

 新潟県に入り名前を信濃川に変えて、十日町盆地を北東方向に流れ、越後川口で谷川岳を源流とする魚野川と合流します。その後小千谷から長岡で扇状地を作り、越後平野を北流し新潟市で日本海に至ります。越後平野では人工的な大河津分水、関谷分水で日本海に分流しています。大河津分水から下流を信濃川下流域と呼びます。