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火山についていろいろ(7)VEIと巨大噴火

2023年03月27日

 VEI(Volcanic Explosivity Index)=火山爆発指数は、火山の爆発規模の大きさを表す区分で、火山のその時々の爆発の大きさを示しています。爆発噴出物の量で0~8に区分され、8が最大規模です。

 VEIの決定には噴出物の種類は関係なく、また、静かに流れる溶岩はどれだく多くても考慮されません。したがって噴火のエネルギーを示すわけではありません。ただ、歴史的な記録がなく噴火の状態がわからない古い時代の噴火についても、噴火の規模が評価しやすい、ということでこの指数が一般的に用いられています。

 下の表はVEIの区分とその噴火例を表したものです。

 VEIの値が1上がると、噴出物の量は10倍となります。ただし、1と2の間だけは100倍の差がつけられています。もちろんこの値の幅は大きいので、VEI6に近い5とか、7に近い6とかもあります。

 記憶に近い日本の大きな火山噴火は、1990―1995年の雲仙普賢岳の噴火や1986年の伊豆大島の噴火ですが、VEIでいうと2~3に該当します。なんだ、そんなものか、と意外な気がします。しかし当たり前の話ですが、小さい噴火は頻繁に起きるし、大規模な噴火はめったに起きません。人の短い一生の中で何度か経験する火山噴火はそんなものなのかな、と感じます。

 もちろんVEIが小さいからと言って被害が小さいということではなく、噴火の規模と災害としての規模は全く違うことは強調しておかなければなりません。小さい噴火でも人口の密集地に近ければ大被害になるのは当然です。カムチャッカ半島のようなヒグマしかいないような場所では大噴火を起こしても、大きな災害にはなりません。

 とはいえVEIの大きな噴火がもし起きたら、と思うとそら恐ろしくなります。

 約7万年前に起きたVEI8のインドネシア・トバカルデラの噴火では、当時の人類の大半が死滅したと考えられています。これは「トバ・カタストロフ説」と呼ばれています。人類のDNA解析の結果から、約7万年前に人類の数が1万人以下まで減少し、遺伝的に非常に均質になった、という説です。この説は、気候変動が与えた人類の進化や移動(グレートジャーニー)への影響を考えるうえで大変興味深いものですが、長くなるのでこれ以上は述べません。

      インドネシア・スマトラ島のトバ湖(Googleより引用)

 それはともかく、この噴火による火山灰は、東南アジア、南アジアを中心に厚く積もり、ベンガル湾を越えたインドでも、トバ火山由来と考えられる火山灰が2mも堆積しているそうです。この大量の火山灰によって日光が遮断され、地球の気温は平均5℃も低下し、劇的な寒冷化が長期にわたって(数千年の規模)続いたとされています。

 トバカルデラやアメリカのイエローストーンカルデラの噴火、日本の阿蘇カルデラの噴火などはいずれも記録があるわけではなく、地質学的な研究からわかってきたものです。記録が明瞭に残っている最大の噴火といわれるものは、トバカルデラと同じインドネシアにあるクラカタウ島の1883年噴火です。この噴火はVEI6.5とされ、標高1,800mの成層火山が消滅し、海中にカルデラを作り、四つの島だけが残りました。火砕流は約40km先のスマトラ島を襲い、津波により周囲の島々で36,417人が死亡しました。成層圏まで達した噴煙により北半球の気温が0.5℃~0.8℃低下したと言われています。

 クラカタウ島の噴火に匹敵すると言われているのが、1991年のフィリピン、ピナツボ山の噴火です。この影響で日本でも寒冷化が起こり、夏の無い年と言われ、稲の収穫量が激減し、備蓄米の放出、タイ米の輸入が行われたのは記憶に新しいところです。

        1991年のフィリピン・ピナツボ火山の噴火

 VEI8クラスのトバ火山のような噴火は、数万年から数十万年に一度しか起きないものですが、いつかは必ず起こります。それまでに人間はこの破局的噴火に耐えられるよう、賢くなれるのでしょうか。それともまた別の原因でそれ以前に滅んでしまうのでしょうか?

 ウクライナの戦争を見ていると、「そんなことやってる場合じゃないだろう」と暗澹たる思いにとらわれます。たかが数十年から数百年の歴史の変遷ではなく、数万年のスパンで見れば「人間は同じ、人類はみな兄弟姉妹」などと言ってみたくもなるのです。