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火山についていろいろ(5)富士山

2023年02月13日

 だいぶ前の話になりますが、仕事で会津若松に泊まった時、旅館のおじいさんが「磐梯山は(1888年の)噴火で崩壊する前は、富士山より高かったんだ」と自慢していました。「そんなアホな・・」と思ったのですが、「そうですか・・」と話を合わせました。老人の郷土愛は尊重すべきですからね。

 磐梯山は会津富士、鳥海山は出羽富士、岩木山は津軽富士と各地に○○富士と呼ばれる山があります。なんだかお相撲さんのしこ名みたいでもあります。(照ノ富士は膝を治して頑張ってほしいです)それはともかく、共通しているのは地元の周囲からよく見え、長い裾野をひいた円錐状の山体を持った独立峰です。

 こうした山の代表格で、日本を代表する山といえばやっぱり富士山です。高さといい、大きさといいNo.1です。昔、海外の留学から帰ってきた人たちが、船から富士山が見えると、「ようやく日本に帰ってきた・・」と涙を流した気持ちもわかります。

 一方でまた、大規模噴火が最も危険視されている山も富士山です。特に遠からず発生すると予想される南海トラフ地震に連動して噴火するのではないかと心配されています。これは1707年に起きた宝永地震(東海―南海地震)の49日後に噴火しているからです。

 2011年の東日本大震災後の3月15日に富士山直下でマグニチュード6.4の地震が起きています。マグマだまりが活動し、噴火するのではないかと心配されましたが、幸いこの時は噴火に至りませんでした。

 記録に残る富士山の噴火では、宝永噴火は直近の最大の噴火でVEI(火山爆発指数)5に相当しています。富士山の噴火が危険視されているのは、爆発の規模に加え、東京、横浜から東海道沿岸の都市部に近接し、人的、経済的被害が日本の他の火山と比較にならないからです。

 下の図は富士山周辺の陰影起伏図です。これを見ると富士山は、中央の山体がとんがっている以外は、周囲に比べ非常に起伏が少なく、すべすべしていることがわかります。近くにある愛鷹山や箱根山に比べるとその差がはっきりしています。富士山、愛鷹山、箱根山はいずれも60万年前~40万年前から活動しています。愛鷹山は10万年前に活動を停止しているので、浸食により開析されているのは当然ですが、箱根山は現在でも活発に火山活動を続けています。富士山がこれだけ均整の取れた円錐状の山体を維持しているのは、浸食されてもそれを被覆してしまうだけの噴火活動を行っていることを示しています。

       富士山周辺の陰影起伏図(国土地理院地図を編集)

 富士山の噴火の特徴は、多様な噴火活動を行っていることです。日本の火山はデイサイトから安山岩質のマグマからできていることが多いです。富士山は、宝永噴火ではデイサイト質の爆発的噴火をしましたが、貞観噴火(864年~866年)では流動性の高い玄武岩質の溶岩を噴出し、青木ヶ原を作っています。また、約2,900年前には大規模な山体崩壊を起こし、「御殿場岩砕なだれ」と呼ばれています。さらに火砕流の発生も確認されています。このように富士山は「噴火のデパート」と呼ばれるように、多様な噴火形態を繰り返しています。このことも、富士山を大きくした要因と考えられています。

 噴火の様式は、マグマに含まれるSiO2(二酸化ケイ素)の含有率によって決まります。SiO2が少ない(概ね50%)のマグマは粘性が低く、サラサラ流れる玄武岩質の溶岩になります。ハワイの火山がその代表例ですが、1981年の伊豆大島の割れ目噴火も同様です。SiO2が多いマグマは粘性が高く流れにくい流紋岩質からデイサイト質の溶岩なります。非常に粘性が高い流紋岩質の溶岩は、流れずに溶岩ドームを作ります。昭和新山、有珠山、樽前山など支笏湖周辺の火山が代表例ですが、雲仙普賢岳もその一例です。その中間が安山岩質の溶岩となります。

 島弧の火山は、一般的には初期に玄武岩質の溶岩を噴出して成層火山になり、その後安山岩質溶岩からデイサイト、流紋岩質の溶岩に変わっていくと言われています。そういう点からいうと富士山は活動的な青年期の火山といえます。隣にある箱根山が中央火口丘にデイサイト質の溶岩ドームを作っているのとは対照的です。同じころに活動を始めた火山なのになぜ違うのか?富士山は日本を代表する火山であると同時に、まだ分からないことの多い不思議な火山でもあります。