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火山についていろいろ(6)富士山(つづき)

2023年03月06日

 前回、富士山は「噴火のデパート」と呼ばれている、と書きましたが、全体としていえば玄武岩溶岩の噴出が多い火山です。これだけ長い間玄武岩質の溶岩を噴出し続けている火山は日本では他にありません。

 下の図は富士山周辺を拡大した陰影起伏図です。これを見ると富士山の裾野周辺に多くの側火山があることがわかります。山頂から右下(南東)に大きく口を開けているのは、1707年の宝永噴火を起こした宝永火口になります。左上(北西)には、やや大型の側火山である大室山や、青木ヶ原溶岩流を噴出した割れ目噴火火口列があります。これらの側火山はすべて一回の噴火でできた単成火山です。

       富士山周辺の陰影起伏図(地理院地図を編集)

 この図を見るとわかるとおり、側火山は概ね富士山の北西―南東の軸に沿って並んでいます。このことは、富士山が玄武岩質の溶岩を噴出し続けていることと関連していると考えられています。

 改めて富士山とプレートの位置関係を確認してみましょう。

 日本周辺には、陸側プレートである北米プレート、ユーラシアプレート、海洋プレートである太平洋プレート、フィリピン海プレートの四つのプレートがあり、押し合いへし合いしています。北米プレートとユーラシアプレートの境界が糸魚川静岡構造線です(ということになっていますが、これはとりあえずの仮定だと思います)。フィリピン海プレートは北西方向に移動しユーラシアプレートの下に沈み込み、さらにその下に太平洋プレートが沈み込むという大変複雑な関係になっています。

        伊豆半島を中心としたプレートの関係図

 伊豆―小笠原諸島はフィリピン海プレートとともに北上し、日本列島に衝突します。フィリピン海プレートは日本列島の下に沈み込みますが、軽い地殻の伊豆半島は沈み込むことができずに日本列島を押し続けています。その結果、中央構造線~三波川帯、秩父帯、四万十帯という西南日本外帯の八の字変形が生まれました。このフィリピン海プレートの衝突の先端部、ユーラシアプレート、北米プレートのほぼ交点に富士山があることは注目に値します。

 伊豆半島はフィリピン海プレート上にありますが、沈み込めません。その両側は、相模トラフ側からは北西方向に、駿河トラフ側からは西方向に沈み込んでいると考えられています。明確なことはわかりませんが、伊豆半島を境にフィリピン海プレートが分岐している、ということのようです。

 このプレートの分岐により、富士山周辺では北東―南西の引張力が働く応力場となり、北西―南東方向にマグマが上昇しやすくなります。地殻に弱いところがあるとマグマはもっとも上昇しやすい場所を選んでその都度噴火するので、一回だけの噴火でできる側火山をたくさん作ることになります。また、このこと(フィリピン海プレートが分岐していること)が地下深くでできた初生的マグマである玄武岩質マグマが、分化することなく地上まで上昇しやすい条件を作っていると考えられています。

 「富士山は地球表層における最大級の境界であるプレートの境と島弧の最大級の弱線である火山フロントの交点に位置している。このために、ここはおそらく地下深くでできたマグマが容易に地上に達しやすいのであろう。(中略)富士山生成の秘密が全部解けたわけではなく、その位置の特異性がはっきりと認識されるようになったという段階なのである。」

(貝塚爽平「富士山はなぜそこにあるのか」1990年)

 ところで富士山は約2,200年前から中央火口からの大規模な噴火を起こしていません。理由はよく分かりませんが、それ以降の大規模噴火はすべて側火山からの噴火です。記録に残る富士山の三大噴火(延暦噴火、貞観噴火、宝永噴火)もみな側火山の噴火です。このまま中央火口からの噴火がなければ、今の富士山の美しい形は浸食によって徐々に失われていきます。

 ただ、富士山のテクトニックな位置(プレートとの位置関係)は変わらないので、富士山がその下に古富士山や小御岳山を隠しているように、別の火口から噴火した次世代富士山が新たに出来上がるかもしれません。

 さらに時間が経過し、数十万年から数百万年後には次の伊豆諸島の島が衝突するはずです。するとフィリピン海プレートとユーラシアプレートの境界は現在の位置からジャンプし、新たな半島と本州の境に移動します。その時には富士山は火山としての活動を完全に終え、最終的には現在の御坂山地や天守山地のような、次の世代の大火山を取り囲む、山地の一部になってしまうのかもしれません。

    伊豆の衝突によるプレート境界の移動(産業技術総合研究所より)