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火山についていろいろ(4)カルデラ火山と「利息でござる」

2023年01月24日

 2016年5月に公開された「殿、利息でござる」は、地元宮城県大和町を舞台にした映画で、全国的に興行成績がどうだったのかは知りませんが、宮城県内では多くの観客を集めたようです。もちろん私も見ました。

 長々とした説明は省きますが、江戸時代、仙台藩吉岡宿(現在の大和町吉岡)で、町人たちが頭をひねって宿場町の窮状を救った史実をもとにした映画でした。お殿様役で羽生結弦君が出演していたのが愛嬌でした。

 映画の中で、自称吉岡宿一の知恵者、菅原屋篤平治(瑛太)が「七ツ森」を背景に、京都のお茶を持って帰ってくる場面がありました。原作「無私の日本人」(磯田道史作)の表紙にも描かれている風景です。吉岡の西方にある「七ツ森」と呼ばれる七つの小山は、この地域を代表する風景であり、この山々を見ると、あー、帰ってきたなと感じます。

         七ツ森と背後の泉ヶ岳―船形山連山

 吉岡から見ると、泉ヶ岳―北泉ヶ岳―船形山と続く奥羽山脈を背景にこの七つの山があります。七つ森の近くには、笹倉山(これも離れていますが、七つ森のひとつに数えられます)、長倉山、達子森、赤崩山、蘭山(あららぎやま)、大畑山と標高200m~700m程度のデイサイトから流紋岩質の山がほぼ円形状に並び、その中に吉田川とこれをせき止めた南川ダムがあります。

 この山々の周辺には、地質図で薄緑色に着色された宮床凝灰岩と呼ばれる火砕流堆積物が広く分布し、そのほぼ中心部にクリーム色の若畑層があります。若畑層は湖沼堆積物で形成されています。

      七ツ森周辺の地質図(5万分の一地質図「吉岡」を編集)

            大和町に見られる若畑層の露頭

 実はここは、七ツ森カルデラと呼ばれる火山が約350万年前に大噴火を起こした跡です。この噴火による火砕流は、大和町から加美郡色麻町、富谷市、仙台市泉区北部まで広く覆っています。また、広瀬川河畔に見られる広瀬川凝灰岩もこの火砕流堆積物といわれています。(白沢カルデラの噴出物という説もあります)

 このカルデラ火山の噴火後、陥没した場所は湖となり、そこに長い時間をかけて堆積した土砂が若畑層となりました。その後、後カルデラ期の火山活動で、カルデラ周辺に噴出したのが七ツ森の山々で、溶岩円頂丘群と呼ばれています。その後赤崩山、大畑山が活動し、安山岩質の溶岩を噴出しながら成長したと考えられています。これらの山々の活動期は約160万年~230万年前といわれています。

 もちろん人がいない頃ですから災害にはならないのですが、こんな身近なところで巨大な火山活動が起きていたことは驚きです。

 映画を見てこんな話をしたら、妻に七ツ森はまた噴火する可能性があるのか?と聞かれました。

 七ツ森は奥羽山脈中軸部にある現在の火山フロントからだいぶ東に離れた位置にあります。同じような位置にある古い火山の跡は、青麻山や薬莱山が宮城県内にあります。これらの山は火山フロントが現在より東にあった時代の火山であり、今後活動することはないでしょう。

 ところで、巨大噴火を起こし、山体を持たないカルデラ火山と富士山のような円錐形の山体を持った火山の違いは何なのでしょうか?阿蘇や阿寒などの巨大なカルデラは、噴火と噴火の間の期間が長く、マグマを大量にため込むため大噴火を起こす。比較的短い期間で噴火する火山は繰り返し溶岩や火山灰を(比較的)少量ずつ出すため、円錐形の火山らしい形になる、ということのようです。では、その期間の違いの原因は何か、ということをいろいろ調べたのですが、結局まだよく分かっていないようです。

 日本大学の高橋正樹先生によると「大型カルデラは概ね平坦な場所にあって、高く隆起した山脈の山などにはみられません。活断層の変位などから、これらの地域の長期間にわたる平均的な地殻の変形速度を見積もってやると、その値が小さいことがわかります。変形速度が小さいということは、その場所が比較的静穏な環境に置かれているわけで、そのためマグマが溜まりやすいのかもしれません。」(火山学会ホームページ「火山学者に聞いてみよう」より)

 七ツ森火山も時間をかけてマグマをため、利息を付けて大噴火したのかもしれません。