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土木と建築

2023年10月17日

 「劇的ビフォー・アフター」という番組があります。最近は新しい収録が少なく、BSで再放送をしていますが、おもしろいのでよく見ています。古くなり、さまざまな問題を抱えた家や、家族構成が変わり古いままでは生活しづらくなった家をリフォームして、新たな生活を始めていく、というストーリーです。「これはもう新しく立て直したほうがいいんじゃないの」という家も多いのですが、それを予算の範囲で見事に直していくのが「リフォームの匠」です。

 この匠(たくみ)の名前がおもしろいですよね。「森の木の代弁者」とか「時空間のコンダクター」とか、番組のディレクターが考えるのでしょうが、なかなかすごい名前です。それはともかく、匠もリフォームだけやっているわけではなく、一級建築士として注文住宅の設計を主にしているのだと思います。

 それぞれの家族の構成・希望に合わせ、さらに宅地の条件を勘案しながら、住みやすく美しい家を設計していくという、住宅設計は面白い仕事だろうなあ、とあこがれを持って見ています。番組の中でも、難しい条件の中で工夫し、技術を駆使して全く新しい生活空間を作り、最後は依頼者から涙を流して感謝される―いい仕事だと思います。

 ところで全く話が変わりますが、少し古い話題で、2003年に、イギリスのBBCがイギリス人を対象にして「あなたが最も尊敬するイギリス人は?」というアンケートを行いました。その結果は・・。

1位:チャーチル

2位;ブルネル

3位:ダイアナ元皇太子妃

4位:ダーウィン

5位:シェイクスピア

6位:ニュートン

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 すごい名前ばかりです。1位のウィンストン・チャーチルは第二次世界大戦で、ナチスドイツと対峙して、バトルオブブリテンを指揮し、イギリスを勝利に導いた大政治家です。ダーウィン、シェイクスピア、ニュートンも世界で知らない人はいないだろうという科学者・文学者ですが、さて、2位のブルネルとなると「誰?」となるのではないでしょうか。

 イサンムバート・キングダム・ブルネル(1806―1859年)は、ビクトリア女王時代に活躍した土木・造船技術者です。トンネルのシールド工法を開発したり、クリフトン橋、ロイヤルアルバート橋の設計(美しい橋です)、鉄道の設計、大西洋横断用の蒸気船の設計など、多方面の分野で活躍した多才な技術者でした。

        イギリス・ブリストルにかかるクリフトン橋

 ブルネルが活躍したのは産業革命を経て、イギリスが世界へ飛躍した時代です。大英帝国の栄光を支えた技術者として高く評価されているそうです。もっとも、この票数はイギリス土木学会の組織票もあったと噂されています。

 さて、ひるがえってわが日本で、こうした技術者がランクインすることはあるでしょうか?戦後の経済発展を支えたホンダの本田宗一郎やソニーの井深大は、尊敬する日本人に入るでしょうか?まして、土木系の技術者として、測量の伊能忠敬は別格として、小樽築港の廣井勇、琵琶湖疎水の田辺朔郎、信濃川大河津分水の青山士(あおやまあきら)など、日本の国土開発の先駆者たちはどれほど知られているかというと、地元の人や土木の歴史に関心のある人(そんな人はあまりいません)には知られていても、一般的には今や無名といっても過言ではないと思います。

 田中登はどうでしょう。関東大震災後の東京復興事業に当たり、清洲橋、言問橋、永代橋など隅田川六橋の設計を指揮した技術者です。現在も残る隅田川の橋はその堅牢さと美しさで知られています。田中登の名前は、優れた橋梁設計に与えられる土木学会・田中賞に残っていますが、これまた一般的には無名と言っていいでしょう。ちなみに気仙沼湾にかかる新しい気仙沼湾横断橋が昨年の田中賞を受賞しています。

              隅田川にかかる清洲橋

 一方で建築の世界では「尊敬する日本人ベストテン」に入るかどうかは別として、有名な建築家がいます。古いところでは東京駅や帝国ホテルの設計の辰野金吾、東京都庁、代々木オリンピックスタジアムの丹下健三、黒川紀章、安藤忠雄、近いところでは隈研吾さんなど有名どころが目白押しです。隈研吾さんなんかテレビでも引っ張りだこですよね。

 こうした傾向は世界的にも共通のようです。現代のイギリスでも、アーキテクト(建築家)の方がシビル・エンジニア(土木技術者)よりも評価が高いそうです。「ホテルのチェックインの時、職業欄にアーキテクトと書いた人が、エンジンアと書いた人よりいい部屋に案内された」という話もあるそうです。