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火山についていろいろ(1)フンガトンガの噴火

2022年10月11日

 「地震、カミナリ、火事、おやじ」、身近にある怖いものの例として昔から伝わることわざです。この最後の「おやじ」について、昔の家父長制度下では本当に父親は怖かった、と言われますが、いくら昔でも自然災害に匹敵するほどではなかったでしょう。語呂合わせ(7・5音にするため)にちょうど良かったのではないでしょうか。「地震、カミナリ、洪水、津波」では本当に怖くて面白みがないですよね。

 自然災害には、地震や雷(による火事も含め)、豪雨による氾濫、土砂崩れ、土石流、風雪災害、津波などの他に火山災害があります。日本の自然災害の被害者数を年度別にグラフにしたものを見ると、火山災害はあまり多くありません。

        内閣府発表による戦後の災害による死亡者数

 戦後では2014年の御岳山噴火で、山頂付近の登山者63名が死亡、行方不明になったのが最大であり、20世紀以降で見ると1902年(明治35年)に伊豆鳥島で全島民125人が死亡した噴火が最も大きい火山災害でした。同時期の豪雨災害や地震・津波による災害に比べると、頻度も被害者数も桁が違っています。

 桜島や伊豆大島など、繰り返す起きる噴火に苦しんでいる地域もありますが、いつどこで発生するかわからない洪水や土砂災害と違って、どこで発生するかわかっている場合も少なくありません。したがって1986年(昭和61年)の伊豆大島のように事前に全島避難ということも可能です。また、火山の噴火予知の成功例として平成12年の有珠山噴火が有名です。

     平成12年3月の有珠山噴火(北海道開発局)

 平成12年3月31日に、有珠山西山山麓から大規模なマグマ水蒸気爆発が起き、噴煙は火口上3,500mに達しました。この噴火の前、3月27日から火山性地震が発生し、3月29日には室蘭地方気象台から、近日中に噴火する可能性が高いと緊急火山情報が発令され、壮瞥町、虻田町(当時)、伊達市の周辺3市町では、危険地域に住む住民1万人余りが避難を開始しました。これにより、この噴火による死傷者をゼロにすることができました。

 有珠山が有史以来何度も噴火を繰り返し、被害地域住民に前回、前々回の噴火を経験した人、あるいは年長者から経験を伝聞した人が多かったこと、またハザードマップの作製や、避難訓練が実感を持って行なわれていたことが被害の軽減につながっていました。

 それでは火山災害は相対的に大したことがないかといえば、決してそうではありません。大被害を起こす噴火は他の自然災害に比べて再来期間が長いのです。

 今年1月15日、南太平洋トンガの海底火山「フンガトンガ・フンガハアパイ火山」が噴火し、その様子を撮影した衛星写真が世界を驚かせました。こうした火山噴火の様子が上空から撮影されたのはおそらく初めてであり、私もその巨大さにショックを受けました。噴煙の高さは高度30kmに達し、直径600kmとトンガの全島を覆いました。

         衛星撮影によるトンガフンガ火山の噴火

 さらに世界を驚かせたのは、噴火の衝撃波による津波です。日本の太平洋岸では潮位が最大1m上昇し、人的被害はありませんでしたが、四国で船舶が転覆しました。

 この噴火の火山爆発指数(VEI:これについてはあとで詳しく説明します)は、当初5~6の大規模噴火と推定されていましたが、人的な被害は意外なほど少なかったのです。津波を含めた直接の死者は4名、負傷者は10名ですが、被災者はトンガの全人口の84%にあたる約87,000人となっています。死傷者の少なさは、噴火したのが海底火山であり、付近の島が無人島であったこと、一番近い有人の島まで40Km離れていたことがあげられています。 

 フンガトンガ火山はトンガ海溝で太平洋プレートがインド・オーストラリアプレートの下に沈み込むプレート収束帯にある火山で、日本周辺の火山と同様に形成されています。1月15日の噴火では、噴火の早い段階でカルデラが崩壊し、大量の海水がマグマのある深部に流れ込んだことによる、大型のマグマ水蒸気爆発であったと考えられているようです。

 そのため、爆発の規模からすると発生したはずの火砕流がなく、噴出物が非常に少なく、細粒の火山灰がほとんどを占めるという珍しい噴火だったと言われています。

 とはいえ、本島のトンガタプ島の近くでこれだけの噴火があれば、大変な被害があったでしょう。また、トンガフンガ火山が噴火を起こしたのは約1,000年ぶりと考えられています。住民の記憶も当然なかったでしょう。あらためて、火山噴火には一筋縄ではいかない難しさがあることを示した噴火でもありました。