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3億円が当たったら

2019年11月28日

 まもなく12月、今年もあと1か月となりました。12月と言えば年末ジャンボ宝くじ、すでに11月20日に全国一斉発売になっています。楽しみに買っている人も多いかと思います。今は1等・前後賞合わせて10億円、すごいですね。ところでまだ年末ジャンボが3億円だったころのお話です。
 同業のとある会社を訪ねた時のことです。打ち合わせが終わって雑談になり、年末ジャンボ宝くじに当たったらどうするかという話題になりました。いろんな話が出るなかで、その会社の専務だったか部長だったか、とにかくエライ人が「3億円当たったらおれは仕事を辞めるな。別に楽しくてやっているわけじゃないからね」と言い出して、まわりの人たちがすっかりしらけた雰囲気になってしまいました。
 その話を聞いていて「なんたる男だ!」と私はすっかり腹を立て、面白くない気分でその会社を後にしました。
 正直な気持ちなのかもしれませんが、会社の最高幹部たる人間が部下を前にして「別にこの仕事が楽しいわけじゃない」などと言うことが許されるでしょうか。上司が自分の仕事を面白いと思わなければ、部下が面白いと思うはずがありません。
 会社員は働くことによってその対価としての給料をもらい、それで自分と家族の生活を維持しているのですから、「給料さえもらえればいい」とも言えます。また、会社の方も「社員が面白いと思おうがつまらないと思おうが、やるべき仕事さえやってもらえばかまわない」という考え方もあるでしょう。しかし、それで会社が発展するでしょうか?また、社員も一人の社会人として成長していくでしょうか?
 自分の仕事が社会に必要とされている、また会社に必要とされている、という意義を感じることは極めて重要なことであり、働くことは、その人が誇りを持って生きていくため必須のことだと私は思います。
 「ボーリングの面白さ」でも書きましたが、私は長い間この仕事をやってきて、面白い仕事だなあと感じています。もちろん現場での作業は、夏の暑さや冬の寒さという自然条件の厳しさがあり、重機やクレーンを使えない仮設条件の難しい現場では力仕事も出てきます。しかし、厳しい条件の中でいかに効率的に仕事を進めるのか、複雑な地質条件で早くきれいに掘削するにはどうするのか、頭を悩ます仕事こそ面白いものです。また、目的に沿った調査をどう進めるのか検討するには、目的とする工事についての理解も必要であり、そのために視野を広げる勉強も必要になってきます。これもまた面白さにつながります。
 ボーリング調査は、土木、建築のほとんどすべての工事に必須なものです。道路、橋、トンネル、堤防、ビルなど、設計のためには必ず最初に行わなければなりません。これがなければ何も作れないといっても過言ではない、本当に大事な仕事だなあとつくづく感じます。もちろんこれはボーリングに限ったことではなく、どんな仕事にも共通することです。
 社長や最高幹部は、ただ毎日の業務を進め、売り上げを上げ利益を出すだけが仕事ではありません。社員に仕事の意義や面白さ、会社の夢や希望を伝えるという重要な責務を負っているのです。最初の話で出てきたエライ人は、仕事ができると評判の人でしたが、そうした視点では幹部として失格と言わざるをえません。
 ところで、では私が3億円を当てたらどうするか?軽くて簡単に扱えて、能力が極めて高く、しかも壊れにくい画期的なボーリングマシンの開発に使いたいのですが、難しいだろうなあ・・・。


台風19号が残したもの

2019年11月11日

10月12日から13日にかけて東日本を縦断した台風19号は、ご存じのとおり大変大きな被害をもたらしました。10月28日時点の総務省消防庁の発表によると、死者行方不明者100名、住宅被害は全半壊4,008棟、床上浸水3万4,002棟、床下浸水3万6,565棟、同じく10月28日の国土交通省発表によると、7県20水系71河川、計140箇所で堤防が決壊、17都県で決壊、越水による浸水被害が発生したと報告されています。
 昨年7月の西日本豪雨に比べ、死者行方不明者こそ少なかったものの、令和になって初めての大型水害は、過去数十年間で最も広い範囲に被害をもたらしました。前回のブログ「忘れることについて」で、治水の重要性を忘れないことが必要と書きましたが、忘れるどころか、強烈な記憶を残すものになってしまいました。お亡くなりになった皆様のご冥福をお祈りいたします。

             浸水した丸森町中心部(写真:国土交通省)


 宮城県内でも、丸森町、大郷町の被害が大きく報じられ、現在堤防等の仮復旧が行われています。また、これからの復旧方針を決める災害査定のための調査も始まり、当社も対応を求められています。通常業務も繁忙期に入っており、どこまでできるかわかりませんが、できるだけの対応をしなければと思っています。
 被害が広く大きく、その種類、要因もさまざまであり、これから個々の被害が分析され、国土交通省を中心にそれぞれへの対応策が検討、決定されていくことと思います。
 個々の被害は別にして、これだけ多数の堤防が決壊したこと、特に千曲川(信濃川)、阿武隈川という日本を代表する大河川が破堤したとことは大きな衝撃です。被害の広さという点では、終戦直後のカスリーン台風以来ではないかと感じます。その背景には多くの方が指摘しているとおり、地球温暖化による海水温の上昇があることは間違いないでしょう。台風19号はスーパー台風と言われましたが、これからはこれが特別なものではなく、繰り返しやって来るものと見なければなりません。
 表題で「台風19号が残したもの」と書きましたが、それは大きな被害だけでなく、これからのわが国の国土のあり方、防災のあり方を、温暖化という変化に対応しどう変えていくのかという宿題ではないかと思います。
 防災対策として、堤防やダム等のハード面の対策だけでなく、ソフト対策の重要性が強調されていますが、その基礎となるのは各自治体で作成したハザードマップです。ところで、40代より若い人たちに話を聞くと、高校で「地学」を勉強しなかったという人がほとんどです。高校の先生に話を聞く機会もありますが、「地学」の授業はあまりやられていないようです。自分が住んでいるところがどういう場所なのか、段丘なのか扇状地なのか、あるいは蛇行原なのか、またそれらの地形種はどのような地形営力でできたものなのか、といったハザードマップを理解するための基礎が学ばれていないのです。
 宮城県内には多賀城高校に災害科学科があり、特色ある教育がなされていますが、ここまでとは言わないまでも、地学教育により自然災害の基礎を理解しておくことは防災のために大変重要なことではないかと思います。教育行政の方にもぜひ検討していただきたいところです


忘れることについて(1)

2019年09月09日

  しばらく前のことになりますが、1月に河北新報社と東北地域づくり協会の共催した「復興を支えるインフラ整備」という講演会に行ってきました。その基調講演で日本河川協会の大西専務理事から次のようなお話がありました。
 「社会資本には逃れられない宿命がある。完成直後にはとても喜ばれるが、10年もたつと、前からあったよね、で終わってしまう。堤防やダム、水門などは機能不全になってもすぐに困るわけではなく、100年に1回、50年に1回といった確率論で作られているため、本当に機能を発揮し、必要とされる機会は少ない。すなわち忘れ去られる運命にある」
 そういうわけなので、治水事業の必要性をわかってもらうため、様々な取り組みが必要になる、といったお話でした。
 昨年の西日本豪雨は、毎年のように自然災害が起きている日本でも非常に広い範囲で被害が発生したという大きな意味を持った水害でした。広島県を中心とした土砂災害、岡山県倉敷市真備町での堤防の決壊による浸水、冠水被害、愛媛県肱川流域での氾濫などが大きな被害として注目されましたが、それ以外でも同時多発的に多くの地域で被害が起き、死者224名、行方不明者8名という平成最大の水害となりました。

             岡山県倉敷市真備町での浸水被害


 被害の大きさだけでなく注目されたのは、「過去に例がないほどの豪雨、命の危険がある大雨になる可能性が大きい」と気象庁が事前にアナウンスし、各自治体が避難勧告、指示を出しながら、実際に避難したのは約1割、実に9割の人が避難しなかったという事実です。(平成31年2月8日内閣府発表「平成30年7月豪雨を踏まえた避難に関する取組」より)
 また、真備町の浸水被害エリアは事前に公表されていたハザードマップとほぼ正確に一致していたことが知られています。これは他の被災地も同様ですが、真備町の住民を対象にした災害後のアンケート調査によると、75%の人はハザードマップの存在を知っていましたが、その内容を知っていた人は24%にとどまっています。また、洪水の可能性のある低地居住者の多くが洪水の危険性を認知していなかったという結果が示されています。そして非難しなかった理由として、27%の人が「2階に逃げれば大丈夫だと思った」、33%の人が「これまで災害を経験したことがないから」を上げています。
 こうした行動を「正常性バイアス」と心理学では呼ぶそうです。
 「被害に巻き込まれることが予想される事態に直面しても、人は日常生活の延長上と認識してしまいがち。都合の悪い情報を見過ごすなど【自分だけは大丈夫】と思い込んでしまう傾向がある」(令和1年8月16日付産経新聞、東京女子大学の広瀬弘忠名誉教授)
 これについてもう一つ注目したいレポートがあります。(平成30年8月31日ウェザーニュース社発表)
 平成30年8月17日~20日にウェザーニュース社が調査したアンケートによると、過去、避難場所に避難したことが「ある」と回答した割合は全体で5%だった。各都道府県別でみると非難経験率は、1位熊本県、2位宮城県となっており、熊本地震、東日本大震災の経験がうかがえる結果となっています。

          ウェザーニュース社発表「減災2018」より

 災害が起きるたびに「今までこんな災害がここで起きたことはなかった」という声が聞かれます。それは災害の再来期間が一般的に人の一生よりも長いためです。そして以前の災害は忘れ去られているのです。ここで最初の話に戻りますが、治水事業の必要性は、西日本豪雨の被災地の方たちは痛切に感じられているでしょう。しかし、それは防災事業の進展と時間の経過とともにやがて薄れ、忘れ去られる可能性があります。
 人が生きていくうえで【忘れること】は相当に大事なことです。昔々の恨みつらみをすべて覚えていたら、生きにくくて仕方ありません。ただし、防災という面では、忘れることは大変に危険なことです。いかに災害の記憶を残していくのか、阪神地震や東日本大震災での記憶の伝承の重要性が強く訴えられているのもこうしたことがあるからです。


「世代」について

2019年08月21日

 求人について相談していると、いろいろな人たちから「今の高校生はね・・・」と教えられます。
 それによると今の高校生を含む若い人一般の傾向は、いわゆるゆとり教育を受けた「ゆとり世代」であり、その特徴として以下の特徴があるそうです。
・打たれ弱い、ストレスに弱い。
・会社の仕事よりプライベートが大事、やりがいの無い安定した職場を求めている。
・安定志向で真面目である。

 ふーむ・・・。
 ゆとり教育で競争の少ない環境で育ったため頑張れない、叱られることに慣れていないということらしいのですが、なるほどとは思うものの、ではどうしたらいいのだろう。当社でも来春入社が内定した人がいます。入社した人には長く勤め会社の戦力になってほしいと思うので、どう接すればいいのか、教育指導すればいいのか、調べてみました。
 ある会社のホームページで、まとめたものを見つけました。

【ゆとり世代の新入社員、部下との付き合い方】
①「世代」で括らない
 「ゆとり世代だから○○ができない」と世代のせいにするのでなく、まずは新入社員や部下に歩み寄ってほしい。
②感情的に怒らない
 どなったり、私怨の混じった叱り方をしない。ゆとり世代が何かミスをした際には、業務に必要な指摘を端的に伝えるよう心がける。
③仕事の意義を明確に伝える
 ゆとり世代の新入社員は、自分にとって意義を感じない仕事をしているとモチベーションが下がったり、その仕事を避けようとする傾向がある。仕事を任せるときには、「仕事の目的、意義」を明確に伝える必要がある。
④失敗することの大切さを教える
 なんでもそつなくこなしてきた真面目な新入社員は【失敗】をあまり経験していないことがある。早い段階で「失敗することは恥ではない、大切なこと」ということを伝え理解してもらうことが大事だ。耳にタコができるくらい「失敗することは恥ずかしいことではない」と教え込んでほしい。
⑤精神論や自分の意見を押し付けない
ゆとり世代は良くも悪くも合理的な考え方をする人が多いとされている。精神論や自分の意見を押し付けずに、相手のアイデアを求めるなど相互コミュニケーションを図ってほしい。

 なあんだ、みんな会社として当たり前にやるべきことではないですか。「ゆとり世代」に限らず、普通に社員、部下に接すべき態度であって、心配して損した気分です。とはいえ、こうした基本的なことがやられていない会社があるから、または会社としてはそうした考えがあっても、個々の上司ができていないことがあるから、こうした注意点が取り上げられているのでしょう。当社でも、こうした誰に対しても当然やらなければならないことを、改めて確認しておかなければならないと思います。
 思い返してみれば、私が若い頃も父親のような戦前生まれの人たちからは「戦後教育を受けた連中は根性がない」とか「自己中心的だ」などと言われました。また、団塊の世代(私より10歳ほど上の先輩たち)からは「おれたちのころは同級生が多くて競争が激しかったものだ。お前たちの年代は競争も少なくのんびりしすぎている」と批判されたものでした。
 もっとも、古代バビロニアの粘土板に「今どきの若いものはなっていない、嘆かわしい時代になったものだ」と書いてあったそうです(ガセネタという説もありますが)。「ゆとり世代」の若者も、きっとまっとうに成長し、先輩たちと同じように次の世代に接していってくれるのでしょう。


ボーリングの面白さ

2019年06月24日

 三省堂の大辞林によるとボーリングとは、
① 穴をあけること。
② 地質調査や地下資源の採取などのために,地中深くに細い穴をほること。試錐

(しすい)。試鑽(しさん)。
 と書いてあります。


 ボーリングといっても深度はいろいろです。海洋開発研究機構の海洋掘削船【ち

きゅう】は、水深数千メートルの海底から3,000mも掘削しますし、石油などの資

源開発でも、3,000m~6,000mの掘削はざらです。また一方で、ハンドオーガーの

ように人力で2~3m掘っておしまいという浅いものまであります。ちなみに最も深

く掘削したボーリングは、ロシアのコラ半島で地殻深部を調べる科学プロジェクト

として旧ソビエト連邦のチームが掘削した12,262mです。

 当社はボーリングを仕事にしていますが、入社したての人に仕事をしていて何が面

白いのか聞くと、よく「いろいろなところに行けて楽しい」というような返事が返

ってきます。実をいうと私も仕事を始めたばかりのころは全く同じでした。全国のい

ろいろな場所に呼ばれるので、観光で行くわけではありませんが、初めての土地

の風景やその地方それぞれの方言、文化に接することは、新鮮な感動がありました

そこからだんだんに仕事に慣れ、おぼえてくるとボーリング独特の面白さが感じら

れてきます。ボーリングの深度はさまざまだと書きましたが、共通しているのは目

に見えない地下を相手にしているということです。この「目に見えない」というこ

とが、ボーリングの面白さの根底にある、と感じています。
 当社のボーリングは土木工事、建築工事のための調査が主ですので、深度は概ね

300m~400m程度までで、地下の土や岩盤をなるべく地下にある状態に近いままで

採取することと、その孔を使った原位置試験をすることを主な目的としています。

この「地下にある状態に近いままで」ということがくせもので、経験と技術を要す

る仕事なのです。

 地面の下は本当に複雑にできています。数万年から数億年という長い年月で堆積

した土や岩盤が地球の力によって、くっついたり離れたり、折れ曲がったりずれた

り、さらにはその上に火山からの噴出物が重なったり、下からマグマが入ってきた

りと、実に様々な岩石から構成されています。したがって、ボーリングをするとき

には、その土や岩盤にあった道具(ツールスといいます)をとっかえひっかえ組み

合わせて掘削する必要があります。
 ここで問題になるのが、次にどんな岩石が出て来るのかわかっていればそれに合

わせたツールスの組み合わせを準備できるのですが、目に見えないためにわからな

いということです。土や岩盤の状態に合わないツールスや掘削水(泥水といいます

)を使用して掘削すると、採取した土や岩盤が乱れたり、採取できないということ

が起こり「地下にある状態に近いままで」採取するという目的を達成できないこと

になります。また、そうした掘削孔では、正確な原位置試験ができないことがあり

ます。
 では、どうやって地下の状態を知るのか?
アナログな方法ですが、ボーリングマシンとポンプの圧力ゲージの変化、エンジン

音、振動、掘削速度の変化といった地上のパラメーターの変化から土や岩盤の変化

を読み取ることで行います。しかし、そうしたパラメーターの変化の原因は一つで

はありません。水圧が上昇した、といっても、岩盤が軟質になったのか、掘削によ

って発生した細粒土が増えたのか、崩壊しているのか、ツールスが詰まったのかな

どなど様々な原因が考えられます。これらのパラメーターの変化を組み合わせ、地

下と孔の状態を推理しながら掘削していきます。
 この推理が正しければ、きれいなコア(棒状に採取した土や岩のサンプル)が採

取できるし、間違っていれば採取できないとなります(偶然取れてきた、というこ

ともあります)。ボーリングオペレーターは、見えない地下の土や岩盤と常に対話

しながら掘削しているといってもいいかもしれません。当社社員の畠山が「ボーリ

ングマイスター(匠)東北」に認定されたことをお知らせしましたが、ボーリング

マイスターは、この推理の名人といえるでしょう。
 人工的な均質なもの(たとえばコンクリート)を掘削するのであれば、こんな苦

労はありません。複雑な自然を相手にしているからこその苦労なのですが、苦労し

て良質なコアを採取し、目的を達成した時の満足感は何とも言い難いものがありま

す。
 ボーリングオペレーターは、職人でもあり技術者でもあります。マイスター兼エ

ンジニアですね。泥んこで真っ黒になって作業していて何が面白いんだろう、とは

たから見ると思われがちな仕事ですが、実はこうした深い面白さがあることを知っ

ていただければと思います。